直熱管171A/71Aシングル・ミニワッター

2017/5/31

 

前々から興味があった直熱管の71A、手に入れてから随分と月日が経ちました。左はRAYTHEON、右はRCAで刻印物、プレートやマイカの形状が異なります。どちらも白箱に入った中古球です。今回、ぺるけさんの「改訂版直熱管171A/71Aミニワッター」を作り、この71Aの音色を聞くことができました。本稿は、その制作記録です。

 

 プレートの構造が異う

 

 

左がRAYTHEON、右がRCA

 


♪ 回路

回路は、ぺるけさんの記事の回路のままです。出力トランスは東栄のT-1200、電源トランスは春日無線のH9-0901、主要な部品は、ぺるけさんから頒布していただきました。また、制作途中で、片チャンネルの半導体を壊してしまいましたが、壊した部品だけを再頒布していただきました。ありがとうございました。

回路図はこちらです。

Ø  増幅部

Ø  電源部

尚、電源トランスをH9-0901としたためか、フィラメント電圧とV+電圧が低めになったので、電源回路の2個の抵抗の値を変えました。値を変えた部品は、これだけです。

²   V+電源回路のドロップ抵抗(プラス側)の100KΩを68KΩに変更

²   フィラメントDC電源回路の平滑抵抗11.8Ωを、1.2Ω(実際は、1.8Ωと3.3Ωを並列接続)

  

部品たちです。

 

春日無線のH9-0901と東栄のT-1200(デカールが変わった?)

 

 

右の小袋が頒布部品

沢山の電解コンデンサー(全て一般品)

 

 


♪ レイアウト

シャーシは、薄型が好みなので奥澤のO-2715cm*25cm*4cm)としました。スタイルは、縦長にするか、横長にするか、少々迷ったので、それぞれのスケッチを描いてみました。縦長のスタイルは、置き場所を取らないのですが、横長のスタイルの方がオーソドックスで良い印象なので、横長としました。

 

♬ 電源トランスと出力トランスの配置  

横長のスタイルとしたので、電源トランスと出力トランスの配置は、ぺるけさんのミニワッター用汎用シャーシの配置をコピーすることができます。これにより、電源トランスからの誘導ハムの事前確認、トランスの配置実験をスキップすることができました。

 

♬ ソケット周りの通気孔

以前に自作した超三極管接続回路6BM8シングル・アンプでは、シャーシの表面、50BM8の周囲に20ヶの通気孔をあけましたが、工作技術と工具の不足から、あまり見栄えのしない通気孔になってしまいました。そして、この通気孔により50BM8が冷却される効果が確認できませんでした。

Ø  真空管の温度測定真空管周りの通気孔の効果 参照

そんなことや、ぺるけさんの記事に「かなりぬるい球」とあったので、シャーシの表面、71Aの周りには通気孔を設けないことにしました。換気は、電源トランスとシャーシの間の隙間がにお任せです。

 


♪ シャーシ内の部品配置と平ラグの作成

15cm*25cm*4cmの中に入れ込むとなると、結構とビジーな配置となります。20Pの平ラグは入らず自前で平ラグの実装設計をしましたが、これには結構と時間がかかりました。あれこれと悩みながら、コンデンサーを寝かせ、短い平ラグを使い、以下のような配置とすることにしました。

 

また、アンプをひっくり返して裏蓋をあけバイアス電圧を調整するのは面倒なので、6AH4GT全段差動プッシュプル・アンプのようにひっくり返えさなくても調整ができる実装を考えたのですが、バラックで組んだ評価では安定していたので取りやめました。(71Aを差し替えて音色の違いを楽しむという趣味はありませんが、古典球なのでこまめな調整が必要かと勝手に思い込んでいました。)

 

 

♬ 増幅部用平ラグ

片チャンネル分を手持ちの8Pの平ラグに組み込みます。信号の誘導や飛びつき?などには配慮ができず、省スペースになるようだけあれこれと考えた結果、下記の部品配置でなんとか納まりました。

納まったものの、この配置だと電解コンデンサどうしが接触します。そして電解コンデンサーの外皮は絶縁体ではないそうなので、スペーサを挟んで、クールガンで固定しました。固定し終えてからですが、クールガンの樹脂は、絶縁材としてはどうなのか気になり調べましたが、はっきりはしませんでした。スティックの材質に依存するようです(#1#2)。今のところ、不具合は出ていませんが、クールガンでの固定ってどうなんでしょうか?

スペース的には、一番大きなショートループコンデンサー100uFを平ラグ内に組み込まずに71Aのソケット付近に独立させた方が良かったように思います。また、20Pの平ラグを切り取って市販されていない18P16Pの平ラグに作り変えても面白かったと思います。

 

 

 

♬ V+電源用平ラグ

部品点数が少ないのであまり悩むことなく6Pの平ラグに組み込めました。写真では分からないですが、2SK3767のゲートにつながる4.7KΩは、2SK3767の足に直結させています。電源トランスの手前の空間に設置します。

 

 

 

♬ フィラメントDC電源用平ラグ

一番あれこれと悩んだのが、このフィラメントDC電源用の平ラグです。

最初は、入力ボリュームを挟んだ左右の空間・71Aのソケットの手前に配置しようと検討したのですが、どうもうまく納まりません。

そこで、V+電源用平ラグと並べて、電源トランスの手前の空間に配置することを考えました。ただし、この場所は、8Pの平ラグではスペース的に厳しく、6Pの平ラグが妥当です。しかし、6Pの平ラグでは端子数が足りません。そこで、3Pの小型立ちラグを平ラグに合体させ端子数を増補しました。また、W02Gの足を2本、絶縁チューブを使い交差させる荒業(?)も使います。これにより、なんとか6Pで納まってくれました。

 

シャーシ表面にネジの頭を出したく無かったので取り付けボスを使い固定することにしましたが、4700uFの電解コンデンサーの高さが26mmもあるので市販の取り付けボスが使えず、高さを抑えた取り付けボスを自製しました。

 

 

 

 


♪ 平ラグの実装検証/直流電圧のチェック

あれこれと悩んで作った平ラグ、うまく実装できているでしょうか。シャーシ内に組み込んでしまうと手戻りが出たときに大変そうなので、まず、評価ボード(アルミの平板)の上に作り終えた平ラグやトランスを固定し、次のように段階的に結線をして直流電圧をチェックしました。

@ B電源用の平ラグと電源トランスとの間を配線して電圧をチェック

A フィラメントDC電源用の平ラグを配線し電圧をチェック

➂ 左右の増幅部の平ラグを含めすべてを配線、真空管を挿入しない状態で電圧をチェック

C 真空管を挿入してすべての電圧をチェック、F点が107Vになるように2SK30のソース側の500ΩVRを調整

 

@〜Bの段階では真空管を挿入していません。このため電源トランスにとって負荷が軽い(電流が流れない)状態のため電圧は設計値より高めになるそうですが、どの程度高くなるのか不明だったので、高ければOKとしました。

真空管を挿入したCの段階で、電源トランスをH9-0901としたためでしょうか、フィラメント電圧とV+電圧が低めになりました。そこで、先に記したように、電源回路の2個の抵抗を変えました(回路図参照)。

各部の電圧値です。概ねぺるけさんの記事に記された範囲内の値となりました。うまく実装できたようです。また、中古でしたが71Aもハズレではなさそうです。

 

 

ð E点の2SK30Aのソース電圧が高めです。2SK30Aのバイアスが深めということかと思いますが、特に支障はなさそうです。利得に影響が出る?

ð 実測値は、数分間の平均値です。V+の値が左右のCHで異なっていますが、実際は一致しているはずです。F点の電圧は、107Vに調整しても、しばらくすると108Vになっていたり、翌日は105Vだったりという状態です。このように電圧値は、C点、D点、E点を除いては、ふらついていてますが、これは、アンプの動作が不安定なわけではなく、我が家の商用100Vのふらつきが要因だと思います。テスター2台でAC電圧とF点の電圧を同時に見ていると変化が連動していますし、また、交流信号の測定では、値は安定しています。測定では、商用100Vの電圧値が100Vになるようスライダックで調整するという人手安定化(?)装置を用いましたが追いつきません(当たり前ですよね)。毎度のことではありますが、直流電圧の測定は好きになれません。商用100Vのふらつきは何とかならないものでしょうか。B電源の安定化を本気で考えたりします。

ð Bの段階で、スライダックを使って各点の電圧の状態を見ながら徐々にAC電圧を上げていったのですが、B点の電圧がリニアに上昇せずV+100Vを超え150V位になってもB点は数Vのレベルです。原因の特定に時間がかかりました。実装に問題があるかと思い、どう間違ったらこうなるのか各電圧値を回路図に書いて、ここの電流は何mAとか計算しているうちに理解できました。2SK30の動作を考えれば当然の振る舞いですね。思い切って電圧を上げていったところ、V+200Vを超えてからB点の電圧が一気にアップしました。直流動作を理解しないままリニアにアップするものだと思い込んでいたのが敗因でした。

¬  ぺるけさんの設計した回路では、動作確認の際にスライダックで徐々の電圧を上げることは避けた方が良いようです。

ð 2SK30のソース側の500ΩVRを回すことで71Aのプレート電流の多寡を調整することができます。できれば、右回りに回したとき電流が増加するようにしたいと思い、500ΩVRの足の接続を考えながら実装しました。しかし結果は逆でした。右に回したとき電流が減ってしまいます。 500ΩVRの足の23を接続する→右に回す→2SK30のソース抵抗が大きくなる →2SK30のバイアスが深くなる→2SK30のドレイン電流が減る→・・・のように順番に考えていったのですが1か所間違えました。恥ずかしいというか、上下関係で混乱する、分からなくなることが私の頭にはあるようです。

ð Bの段階では真空管を挿していないので電源を切ってもフィラメント端子間に5V以上の電圧が残ります。ショートさせたらパチっと火花が出ました。

ð ➂の段階で、2SK30のソース側の500ΩのVRで調整してB点の電圧を下げておくと良いかと思います。この電圧値が高いと次のCの試験の最初の電源投入で71Aのプレート電流が多く流れます。

ð 慎重に作業をしたつもりですが、R-CHトランジスタ他を壊してしまいました。直接の原因は、テスターのリード線を不用意に引っ張ったことです。凹みましたが、ぺるけさんが親切に壊れた部品だけを再頒布してくれて救われました。

ð 測定のときのアンプの状態は危険です。特にバラックの状態はとても危険。高電圧の端子には不用意には触れることができない、物が落ちてもショートしにくい、といった工夫を考えたいです。 

 

 

♬ 音出し

この段階でスピーカに繋げて音出しをしてしまいました。お気に入りの曲をかけてみます。

いい感じです。これが古典管の71Aの音色ですか。しばらく、この状態で楽しんでしまいました。製作期間が延びます。

 

 


♪ シャーシ加工

シャーシの加工は山場のひとつです。時間も要しますし、電動ドリルなど大きな音がでますので、深夜、時間のできたときに少しずつというわけにはいきません。そして、一度あけた穴は元には戻りません。毎回何かしらのミスが出ますので注意しながら1日かけて一気に加工しました。何ヶ所か穴の位置が少しずれて補正をしましたが、全体的にはなかなかうまく加工できました。気分よく百均の青棒と古布で磨きます。(奥澤のO-27君は、柔らかいアルミなのか鏡面になってくれません、残念。)

 

  

 

♬ 悲惨

晴れやかな気分も長くは続きしませんでした。

やってしまいました。ソケットを取り付ける3mmの小穴ですが、垂直方向にあけるつもりが何を間違ったのか水平方向にあけてしまいました。どうもソケットを固定するネジで立ちラグも同時に固定しようと考えているうちにこうなったみたいです。これではソケットが90度ずれてしまい合理的な配線ができません。そしてもうひとつ、正面のボリュームの穴の横の小穴は、左側にあけなければなりませんでした。これでは、ボリュームの天地が逆になってしまいます。位置のずれを修正していますが、徒労となりました。

    

 

でも、まぁ、これらは可愛い方です。追加で小穴をあければ良いだけなので。

  

後ろからの写真です。お分かりになるでしょうか。悲惨としか言いようがありません。。。。一気に落ち込みました。

 

 

しばらくの間放置状態となりました。・・・・

 

 

 

 


♪ お宝を眺めて気分転換

バラックの状態は綺麗にかたずけてしまったので、71Aの音色で癒すことはできません。そこで、といわけではないですが、私のお宝、CX-171-Aを眺めることにします。ST管と前後してオークションで入手しました。

 

 

 

  (写真写りが悪い、もっと魅力的なんです。)

 

壁面にそれぞれこんなデカール(?)が張られています。検査証&保証書でしょうかね。お店の名前やNewYorkの番地、電話番号が記載されています。999番だそうです。また、検査日付が手書きで記載されていました。保証期間は6ケ月とあります。販売日は未記入。もしかして未使用品?(なんてことは無いでしょうね。)

 

 

 

 

    

検査した年は、1930年と1932年と記されています。UX-171Aが発表されたのは1926年とのことなのでその4年後と6年後ですね。今から80年以上も前のできごと。この頃の真空管は1本づつ検査されて販売されていたんですね。どんなおじさん(おばさん?)が検査したのかなぁ。Thompson Radio serviceのデカールには、インクの指紋跡が僅かに残ってます。この171が使われていたのはラジオだのでしょうか。どんなラジオでどんな方が聴いていたいたのかなぁ。当時の番組はやはり音楽がメイン?

Google Mapでそれぞれの現在の街並みを見たところ、流石に、Oscars Radio StoresThompson Radio serviceも店舗はなさそうでした。また、176 Greenw. St.は無くて、176 Greene St.はあるようです。そして何とThompson Radio serviceの向かいにあると記されているPatchogue Theatreが今でも健在!

                                        

このお宝の171-A。バラックの状態で音出しをしています。

慎重に挿入して電源を投入。手早く電圧をチェック、F点も107Vに調整できました。ノイズも無くいい感じです。

音色もST管とは何か違うみたいでした。 

それにしても80年以上も経って一発動作OKだなんて感動!!

 


♪ 組み立て

シャーシの加工ではメゲマシタが、組み立てに入りました。平ラグの動作検証は終わっているので、ミスなく配線すれば動作OKのはず。

²   お手本に倣い入力RCAジャックの左CHと右CHのグランド間を結線しシャーシに落としました。

²   入力信号の配線はシャーシ左側面、100VAC配線は右側面に分けました。(下記の画像では左右逆)

²   入力回りの線材にはシールド線は使いませんでした。

²   ACの配線はしっかりと撚りました。

²   交流信号の往来する線と線の間はあけない方が良いそうなので(アンテナになるとか)、入力回りの配線、出力トランスからの負帰還の配線は撚っています。出力トランスの2次側は撚るというほどのことはしていませんが間をあけないようにしました。尚、電源のプラス側の線はアース線と同様に見なしても良いと聞きました(真偽のほどは不明です)。

²   ボリューム周りの配線は、ぺるけさんの「ミニワッター直結シングル・アンプ」に記載されている配線をコピー。

²   平ラグ内の実装密度が上がってしまい、平ラグと各部品をつなける線は、平ラグを固定してからでは半田づけが難しくなり、シャーシに固定する前に半田づけしておくことになりました。

 

電源回りでショートしていないかテスターで確認して、71Aを抜いた状態で電源を投入、電圧をチェック。一旦電源を落として71Aを挿入。再度電源を投入。

問題無しでした。

 

組み立てるときはビジーな感じでしたが、こうして見ると結構と隙間があるように見えます。

 

 


♪ 特性

諸特性は次のようになりました。総合利得他で左右のCHに差異がありましたが、71Aの個体差が主要因です。測定のメイン機材である低周波発振器とAC電圧計は校正されていない中古品なので数値は目安程度ですが、全体的には良好な特性だと思います。ぺるけさんの回路設計のおかげですね。 

 

 ♬ 測定データ

測定データは、以下にまとめてあります。負帰還の勉強をかねて、負帰還の前と後での値を比べてみました

Ø  171A/71ミニワッターの特性データ

 

 


♪ 覚書

疑問に感じたり、新鮮だったり、興味深かった事柄をいくつか記録しておきます。

 

♬ 総合利得が落ちた

バラック状態やアンプをひっくり返して裏蓋を取り去った状態で特性を測定していましたが、アンプを普通の状態に戻したら、総合利得が落ちてしまいました。何故?

Ø  総合利得の変化

 

♬ スタガ比

「真空管アンプの素」176頁から180頁、124頁の解説に従って、171A/71Aミニワッターのスタガ比というものを求めてみました。

Ø  スタガ比

 

♬ 低域のロードライン

妙な表題ですが、出力トランスは周波数が下がるほど1次インピーダンスが下がりロードラインが立ってきます。この点から2SK30のソース側500ΩのVRを回して動作点を低域で有利なように変更して、出力の変化を測定してみました。良い勉強になり面白かったです。

Ø  低域のロードライン

 

♬ 171A3定数を計測

良い音色を聞かせてくれる2本の171A、ただバイアスが-36V-34Vと少々浅めなのが気になります。そこで、どのくらいお元気なのか計測してみました。

Ø  171A/71Aの3定数を計測

 

  

 


♪ 記念写真

サイドパネル用に横木を切り出して塗装、次いでT-1200の帽子を作り、ようやく完成です。

 

 

 

 

 

(修復作業は新規加工より倍は大変でした)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


主要な部品の頒布をしていただき1年半ほどです。予定ではお月見の頃には音を奏でているはずでしたが、鯉のぼりの季節になってようやく完成です。メゲルこともいくつかありましたが、楽しく充実した制作でした。あらためて、ぺるけさんにお礼を言いたいです。

 

 

 


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