171A/71A3定数を計測

2017/5/31

 

ぺるけさんの171A/71Aミニワッターを制作する過程で、所有する2本の中古品のナス管171Aの寿命や状態を知りたくなりました。しかしながら、真空管試験機は所持していなので、別な手段は無いものかと考え、制作した171A/71Aミニワッターを使って相互コンダクタンスや内部抵抗を求めてみました。

新品・正常な71Aを所有していないこともあって確からしさは不明なのですが、記録をまとめておきます。(実験の記録であり、計測方法を提示しているわけではありません。)

 


♪ 測定原理

1で示された通常の増幅回路(カソード接地回路)の出力電圧は、以下の式で与えられます。この特性を利用して測定することにしました。

未知数をrpu2つとすると、式が1つなので、2ケの動作データがあればrpとμを求めることができます。具体的には、同じ動作点、同じ入力電圧で異なる負荷を与えたときのそれぞれのプレート電圧を測定すれば、以下の計算式で増幅率と内部抵抗が得られ、相互コンダクタンスも連動して得られるはずです。

計算式:

 

 

 

 

 

 


♪ 測定手順

冒頭に書きましたように測定には制作した71Aミニワッターを用います。71Aミニワッターの回路自体には、なるべく手を入れないようにしたいと思いましたが、電流の測定用に100Ωの抵抗を71Aのプレートと出力トランスの1次側の間に入れました。

測定する手順は、出力トランスの2次側の8Ω端子に8Ωのダミーロードをつなげ、入力に低周波発振器から信号を与えて所要のグリッド電圧のときの各電圧を読み上げる。次いで、8Ωのダミーロードを出力トランスの2次側の4Ω端子につなぎかえて、同様に入力信号を与えて先と同じグリッド電圧のときの各電圧を読み上げる、という手順としました。

Ø 使用する機器は、低周波発振器、交流電圧計です。71Aの負荷が7KΩでグリッド電圧を1Vとしたときには、プレート電圧は2.3Vほどで100Ωの両端子間電圧は33mVほどと見込まれます。

Ø 出力トランスの1次側のインピーダンスの値としてカタログ値を計算で用いると精度が懸念されます。そこで、負荷の値の代わりにプレート電流の値を計算で用いることにして、71Aのプレートと出力トランスの1次側の間に入れた100Ωの両端子間電圧からプレート電流値を得ることにました。

プレート電流を用いたときの計算式は、RL=ep/ipを用いて先の式を変形すると次のようになります。また、gmを計測するというイメージでgmを先に求めてしまいます。

Ø プレート電圧epは、フィラメントとプレート間の信号電圧を交流電圧計で読み取ることにしました。使用する交流電圧計の内部抵抗は10MΩなので、誤差は気にならない程度かと思います。同様に、グリッド電圧egは、フィラメントとグリッド間の信号電圧を交流電圧計で読み取ることにしました。

Ø 出力トランスの2次側から負帰還がかかっていますが、理論上は測定結果には影響しないはずです。ただし、負帰還がかかっていると、アンプの入力電圧が同じでも、負荷を変えるとフィラメント−グリッド間電圧が異なってきますので、負荷を変える都度、同じフィラメント−グリッド間電圧となるよう入力電圧の調整が必要です。負帰還抵抗の62Ω端子をショートさせる等で無負帰還とすると、負荷を変えてもフィラメント−グリッド間電圧は同じ値になり測定は容易です。

Ø 信号周波数は何KHzが良いか分からないのでとりあえず400Hzで測定しました。

Ø 動作点のずれを気にしなければ、電流検出用の抵抗の値を大きくすると端子間の信号電圧が大きくなり測定が容易かと思います。

 


♪ 測定結果

♬ 実測値のバラツキ具合

所有するST管の71A2本とナス管の171-A2本を測定しました。全て、中古球です。

うまく測定できるのか分からないので、まずST管(RCA球)の71Aを被測定管として、5回測定してみました。また、71Aへのグリッド入力信号の大きさは、3定数の測定なので小さい方が望ましいと思うのですが、100Ωの両端子間電圧が低くなってしまい測定誤差が出る懸念があるので、0.5V1V2V、出力=1000mVとなる13.8V4ケの値で測定してみました。

下表がその結果で、相互コンダクタンスgm1.42mS1.46mS、内部抵抗rp2.06KΩから2.13KΩという結果で、さほどのバラツキはありませんでした。ただ、入力電圧により違いが出るはずかと思うのですがその気配は有りませんでした。

 

 

♬ 診断

さて、後先になってしまいましたが、測定値が実態と合っているとして、測定値からどのように良否を見立てたれば良いのでしょうか。真空管試験機では、gmの減少度合いで判断するそうなので、とりあえず、メーカの規格値と比較してみます。

Cunnighamのデータシートを見たところ代表動作特性例は3例あり、Ep/Ipが、@180V/20mA、A135V/17.5mA、B90V/12mAです。これら動作例の値と比較しても良いのですが、測定時の動作点は168V/16mA(=71Aミニワッターの動作点)で、電圧は@に近く、電流はAに近く、あまりフィットしません。そこで、同データシートの「AVERAGE CHARACTERISTICS」図から、測定時の動作点での3定数を目視で読み上げてみました。

下表がデータシートの代表動作特性例(@、A)と「AVERAGE CHARACTERISTICS」図から読み上げた特性値、そして測定値(平均)との比較です。

  

 

いけそうな感触なので、グリッドへの入力信号を1Vとして、各管の測定を実施しました。下表がその結果で、規格*1が「AVERAGE CHARACTERISTICS」図から目視で読み上げた値です。

     中古球なので、相互コンダクタンスは規格値より下回ると想像してましたが外れました。

     エミッションが低下してくるとプレート電流が少なくなる、ということは、バイアスが浅くなるということだと思っていましたが、測定結果はまちまちです。よく理解できません。

 

以上、怪しげな点がありますが、良い方に解釈することにします。真空管は民生用で使用する限りでは新しい球のgm1/22/3程度までは使えると聞いたので、各管ともまだまだ寿命はありそう。と思うことにしました。

 


♪ 振り返って

Ø epの測定誤差がrpの計算結果に与える影響は大きいようなので、負荷RL1RL2の差を大きくすれば、ep1ep2の差が大きくなるので精度が良くなるのではないか?と思います。

Ø 異なる負荷の与え方としては、2次側8Ω端子に例えば8Ωと2Ωといった異なった値のダミーロードをつなげることでも良いはずです。こうすることでRL1RL2の差を容易に大きくできます。出力が小さいのでワット数は小さい抵抗でも良いと思います。

Ø 内部抵抗を測定するONOFF法のように、RL2を無負荷とすることではどうでしょうか?

Ø 信号周波数は何KHzが良いか分からないので400Hzで測定しましたが、真空管試験機ではAC100Vの波形を信号用に使うそうです。

Ø 相互コンダクタンスだけの測定であればは、バイアス電圧(直流電圧)を変化させて連動するプレート電流(直流電流)の変化から求めることができるはずですが、実際のところは、商用100Vがフラフラしていてるため測定値が安定しません。直流の測定は嫌いなので、試しませんでした。

Ø 貴重な71Aなので数回の測定で止めました。測定に時間をかけられる真空管でいろいろと試してみることができれば楽しめそうです。

 

 


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