真空管の温度測定−真空管周りの通気孔の効果 |
Ver.01 2017/05/31
写真(出典は「オーディオの足跡」)は、LUXMANのMQ36とMQ80。シャーシ表面を見ると、真空管の周囲、ソケット周りに複数の穴が綺麗に配置されています。
私は、このような穴(以下『通気孔』と記します)の用途は、シャーシの底から空気を上昇させて真空管を冷却して真空管の寿命を長く保つためだと思っていました。また、ソケットを落とし込んでシャーシとの間に隙間を設けたアンプも見られますが、この隙間も同様に真空管を冷却するためかと思っていました。
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右の写真は、一昨年に自作した超三極管接続 50BM8シングル・アンプです。 真空管の温度を少しでも下げることができたらと思い、ソケットの近くに通気孔を20ヶほど開けました。電動ドリルを使ってあけたのですが、オムスビ形の穴となったうえに左右によれてしまい、ひとつなどはソケットを固定するビス用の穴と合体するしまつで、やすりやリーマでなんとか補正しましたが、見栄えはいまひとつとなりました。(MQシリーズの写真の後だと気が引けます。)
苦労した割には見栄えがしない通気孔、でも50BM8を冷却する実用性はあるはず、と自分を納得させていました。 しかし、、、 このような通気孔には真空管を冷却する効果は無い旨の話しを耳にしました。通気孔があっても無くても、真空管の温度が変わらないなんて、そんなぁ、、、です。
そこで、通気孔の冷却効果を確かめてみようと、この50BM8シングル・アンプの真空管の温度を測定してみました。
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50BM8の周囲の通気孔の総数は20ヶ、孔の総面積は約10です。また、電源トランスとシャーシ間には隙間が無い構造です。このため、この通気孔を塞いでしまうと、シャーシ上部と側面からの換気は一切できない状態となります。
アンプの全消費電力は、簡易電力計のSANWAワットモニター700-TAP017を使用して測定したところ、38Wでした。 (電源ONからの消費電力の変化が結構面白いです。)
各部の消費電力を計算すると、増幅部は、整流後の電圧が284Vで総直流電流が74mAなので21W、50BM8のヒータ部は、50V/100mAなので10Wです。残りは、電源トランスや整流ダイオードなどの電源部の消費電力で、全消費電力38Wからの差し引きでは7Wとなります。電源部で結構消費していますね。また、50BM8の消費電力は、計算すると2管で26Wですので、アンプ全体の発熱量38Wのうちの7割が真空管からの発熱になります。
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通気孔をあける前に温度を測定しておけば良かったのですが、もう通気孔はあいています。そこで、20ヶ全ての通気孔をテープで塞いで、これを「通気孔無し」と見なすことにしました。現状の「通気孔有り」の状態とテープで通気孔を塞いだ「通気孔無し」の状態とで、温度を比べてみます。 また、今回の測定に際して、アンプは、作業机の上に置いて測定しました。普段もこんな形でラックに入れることなく使用しています。
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測定器は、デジタルテスターMETEX M-3070D(K熱電対)を使用しました。 熱電対の固定方法により実温度と表示温度に差異が出るそうなので、どこまで真値に近いかは不確定ですが、通気孔の有無による温度差、冷却効果を知ることはできるかと思います。
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50BM8のガラス面の温度を何か所か測定したところ、熱電対を接触させる場所により結構と温度の差がありました。そこで、一番高温だった真ん中よりやや上の側面を測定箇所としました。
熱電対は、タコ糸で50BM8に縛りつけました。
測定は、電源ONから1時間の間の温度変化を最初は30秒毎に10分経過後は5分毎に計測することにして、冷却期間をおいて、これを5回繰り返しました。1回目と2回目は、現状の通気孔有りの状態で、3回目と4回目は、ビニールテープで通気孔を塞いだ「通気孔無し」の状態とし、最後の5回目は、ビニールテープを剥いで通気孔有りの状態に戻して測定しました。また、この間、縛りつけた熱電対には触れないようにしています。
このようにして測定したところ、私の思いとは裏腹に、通気孔が有っても無くても50BM8の管壁温度は同じという測定結果となり、このアンプでは通気孔による冷却効果は見られませんでした!! 頑張ってあけたんだけどなぁ。。。
以下が、測定結果の詳細です。
図1は、「通気孔有り」の状態で測定した1回目、2回目、5回目の測定値をプロットしたグラフです。
各回での温度の違いはほとんどなくて線が重なったことから、測定自体には、特に問題は無いものと思われます。
温度の状況は、電源ONから8分ほどで165℃に達し、その後は、165℃のまま一定となっていました。
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この図1に、「通気孔無し」とした3回目と4回目の測定値を重ねてみました。(図2) 「通気孔無し」と「通気孔有り」の温度線が重なりあう結果となり、温度差は出ませんでした。 |
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また、右の表は、一定温度となった電源ON後8分から60分までの間の測定値の平均値です。 各回での測定値に差異は見られず、平均値は165℃でした。 |
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たった一例だけの特定の条件下の測定なので汎用的な事柄は言えませんが、真空管の周りに穴をあければ真空管の温度が下がる、という単純なことでは無いようです。
真空管の周りに配した穴は、アンプの底からの空気の対流によって真空管を冷却するためだと思っていましたが、真空管がシャーシ上にむき出しになる構造では、真空管の周囲の空気による対流冷却の効果の方が高くて、相対的に効果が見えなくなるのでしょうか?
昔のテレビやラジオのように真空管を箱の中に入れる構造とか、もっと大きな面積にするとか、もっと大きな消費電力の真空管とか、、、真空管の冷却に有効となるケースがあるのかも知れません。
50BM8の冷却効果は見られませんでしたが、少なくともシャーシ内部の冷却には役立っている、はずです。(苦労して開けた穴なので、何かしら役に立っていて欲しい!)
ということで、追加で温度を測定することにしました。
シャーシの内部では、特に、電解コンデンサーの温度上昇を測定したかったのですが、熱電対の固定が難しかったので、次善としてシャーシの表面の温度を測定しました。測定した箇所は、定電流用の2SK1758の真上(出力トランスと電源トランスの間)です。
熱電対は、布テープで固定しました。
測定の進め方は、現状の通気孔有りの状態で電源を投入、30分毎に温度を測定、一定温度になったら通気孔をテープで塞ぎ、温度の上昇を確認できたらテープを取り去ることにしました。
電源を投入後1時間半でシャーシの温度は40℃まで上昇しました。その後1時間を経過しても40℃のままでしたので、テープで全ての通気孔を塞いだところ、温度が上昇し1時間後に42℃となりました。その後1時間を経過しても42℃のままでしたのでテープをはぎ取ったところ30分後に41℃に下がりました。(もう30分このまま測定を継続して40℃になることを確認すれば良かった、と今になって思います)
以上から、通気孔を全て塞ぐとシャーシの表面温度は2℃上昇する、という結果となりました。
2℃とはいえ、20ヶの通気孔君達は役に立っていましたね。
シャーシ表面以外に測定が容易だった部位の温度を測定しました。最も熱かったのは電源トランスで、周囲温度から20℃以上も上昇して42℃でした。定格一杯で使用しているためでしょうか。
² デジタルテスターMETEX M-3070Dを購入して10年以上になりますが、初めて、温度測定の機能を使いました。それなりに測定できる感触を得ました。これから、アンプを作ったら温度も測定することにしようかな?
² アンプ全体の温度が安定するまでには、結構と時間がかかるものですね。
² 今回測定した50BM8シングル・アンプは、電源トランスとシャーシの間には隙間が無い構造です。ここは、シャーシ内の放熱のためには隙間があった方が良かったのかな、と思いました。
² ぺるけさん著『真空管アンプの素』
カラス面の温度は、200℃がひとつの目安になるようです。
² Brabecさんの『真空管式機材の取り扱い』
真空管の熱は、ガラス面からの放射冷却と、空気による対流冷却と、真空管の足からソケットを経てアンプのシャーシへの伝導による伝導冷却の3つのルートがあるそうです。
² おんにょさんのサイト。
『6N6P直結パラシングルアンプ・放射温度計』、『6SN7全段差動アンプ・真空管の温度測定』、『17JZ8 CSPPアンプ・温度測定』
² 規格表の “BULB TEMPERATURE” (これまでは気にしていなかった特性・・・)
記載のある球は少ない感じですが、パラパラと眺めたなかで一番低かった管は、MT管の6211(双3極管)で、120℃でした。
MT管のE810Fの規格表(PHILIPS)には温度と寿命が関係する記述がありました。1万時間の寿命が220℃で1/10の1千時間になっちゃう?
² 一木吉典著『オーディオ用真空管マニュアル』第1.1章(8ページ)
ぺるけさんの『真空管の最大定格』に参考になるとあったので、見てみました。消費電力や管種によって、管壁温度が結構と違ものですね。
² 『元祖 [熱の実験室] 第23回 - 熱電対で表面温度を測定』
熱電対は、測定対象との接触手法により、測定値に差異が出るそうです。(こうゆうコンテンツ好きです。)
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