先の「 P-G 帰還の解析 発端 」 でのシミュレーションでは、EL34 に抵抗 Rs と Rf を追加した P-G 帰還回路を、
入力電圧をグリッド電圧と見立てプレート特性図を描きました。
これは、言葉をかえて表現すると、図 1 に示すように、五極管と2 ヶの負帰還抵抗、及び、スクリーングリッド電圧
源から成る P-G 帰還回路全体を、仮想的に三極管と見なしてプレート特性図を描いたことになります。
この“仮想的な三極管”は、実態として三極管的なプレート特性を持っていました。
なぜ三極管的なプレート特性となったのか、その理由を知りたいのですが、何から、どう考えたら良いのか糸口が
掴めません。
そこで、手始めに 「 手書き 」 でこの仮想三極管のプレート特性図を描いてみることにしました。
アンプの設計でとても重要なプレート特性図のおさらいも兼ねて、です。
ただし、実際に測定回路を組み上げて流れるプレート電流を実測するのではでは無く、ベースとなる五極管 ( 多極
管 ) のプレート特性図から、流れるであろう電流値を机上で得ようという目論見です。
まぁ、糸口を掴むため、頭より先に手を動かしてみよう、というわけ!?
測定は図 2 の回路で行います。Ein、Ep、Ip が仮想三極管 ( P-G帰還 ) のグリッド電圧、プレート電圧、プレート電流となります。Eg、Ep、Ipo がベース五極管ののグリッド電圧、プレート電圧、プレート電流となります。 If は負帰還抵抗 Rf を流れる電流です。
² 仮想三極管 ( P-G 帰還 ) のバイアス電圧が Ein 、ベース管のバイアス電圧が Eg です。
² この仮想三極管は、プレート電流 Ip とカソード電流 Ik が異なります。
仮想三極管 ( P-G帰還 ) のプレート特性曲線の測定手順ですが、概ね以下の手順です。
@ ベース管のスクリーングリッド電圧 Esg を固定
例えば Esg=250V
A 所要の仮想三極管のグリッド電圧 Ein の値を幾通りか決める。
例えば、Ein=0V、−10V、−20V、−30V、・・・
B A で決めた仮想三極管のグリッド電圧 Ein をひとつの値に固定する。
プレート電圧を変化させながら、プレート電流を計測する。
測定プレート電圧の変化粒度は、求める Ep−Ip 曲線の精度しだい。
例えば、Ein=0V とし
¬ Esg=250V、Ein=0V、Ep=0V の Ip を計測
¬ Esg=250V、Ein=0V、Ep=40V の Ip を計測
¬ Esg=250V、Ein=0V、Ep=80V の Ip を計測
¬ Esg=250V、Ein=0V、Ep=120V の Ip を計測
・
・
C B の計測データを縦軸にプレート電流、横軸にプレート電圧としたグラフ上にプロットして、1 本の Ep-Ip 曲線を得る。
D B、C の作業を A で決めた仮想三極管グリッド電圧値分繰り返す。
注意 : Web 検索して知ったのですが、実際のプレート特性の測定は、最大プレート損失や最大カソード電流といった最大規格値を超える値での計測が必要なので、真空管を破壊しないように特別な測定技術、測定方法で実行するそうです。どんな手法なのか、興味があります。
仮想三極管 ( P-G 帰還 ) でのプレート特性の机上測定では、あたりまえですが B のプレート電流の測定がポイントで、Ein と Ep の値から、Ip を求めなければなりません。
求める手法として最初に考えたのが図 3 の方法 1 です。
方法 1 − まずは、Ein と Ep から Eg を求め、ベース五極管の特性図からこの Eg と Ep の場合に流れる Ipo を求める。If は負帰還抵抗 Rf と Eg、Ein から得られるので、結果、プレート電流 Ip=Ipo+If を求めることができる。
この方法1は一見よさそうですが、実際にこの方法で測定すると、任意のグリッド電圧 Eg 値からプレート特性図を使ってプレート電流 Ipo を読み取ることになり、これは結構手間がかかり、また読み取り誤差が出ます。
プレート特性図を使ってプレート電流を読み取る場合は、任意のプレート電圧 Ep に記載されているEp-IP曲線のグリッド電圧値 Eg から読み取るやり方が容易で正確です。そこで、ちょっとひと工夫して考えたのが図 4に示す方法2で、Eg と Ein から Ep を求め、次いで、Eg と Ep からプレート電流Ipoを求めるやり方です。
今回は、この方法 2 を採用することにしました。
方法 2 を採用するとしてベース管のプレート特性図から所要の数値の読み取りが容易になりました。
次は、方法 2 の 「 ? 」 部分です。グリッド電圧 Eg と入力電圧 Ein からプレート電圧 Ep を求める関係式が必要です。
どのような関係なのか、考えやすいように測定回路図を変形して、
Ep、Eg、Ein を縦に並べて書き直してみたのが図 5 です。
図 5 から、グリッド電流が流れない範囲では、グリッド電圧 Eg は、
入力電圧 Ein とプレート電圧 Ep が負帰還抵抗で分圧された値と
なることが判りました。
式 @ を変形すると、式A となりました。
注: 式 A はグリッド電流が流れない範囲で有効
後で判ったのですが、この式 A はとても有用で、P-G 帰還回路の振る舞いを表す代表的な式と言えるかと思います。
式 A を変形し Ep について解くと式 A-1 となり、これで、Ein と Eg から Ep を求めることができるようになりました。
また、グリッド電流が流れる領域では、後述しますが、仮想三極管 ( P-G帰還 ) の Ep-Ip 曲線は、ベース五極管の Eg=0 の Ep-Ip 曲線に沿った曲線になります。
P−G 帰還回路はもっぱらグリッド電流が流れない領域で賞味する回路であり、グリッド電流が流れる領域は素人が手を出す領域ではなさそうです。
EL34 をベース管として、このEL34の五極管のプレート特性図から仮想三極管 ( P-G 帰還 ) の Ep-Ip 曲線を描いてみます。
スクリーングリッド電圧は 250V、負帰還抵抗は、Rf=1MΩ、Rs=150KΩ、β=0.13 とします。
では、スタート。
@ 仮想三極管 ( P-G 帰還 ) のグリッド電圧 Ein 値を決める。
© 今回は Ein=−20Vとして、Ep-Ip曲線を描きます。
A Eg 値
© EG値は、用意したベース管 EL34 のプレート特性図の個々のEp-Ip 曲線のEg 値となります。今回の特性図では、Eg=0V、−5V、−10V、−15V、−20V、−25Vです。
B プレート電圧Ep を、式A−1 に Ein 値の−20V と A の Eg 値を代入して求める。
© Eg=−20V、−25Vでは、Ep がマイナスとなるが、マイナスの場合は測定 ( 読み取り ) は不要。
C ベース管 EL34 のプレート特性図から各 Ep 値と Eg 値でのプレート電流 Ipo を読み取る。
© 順に 259mA、173mA、88mA、26mA と読み取れた。
D Rf を流れる負帰還電流 If を計算で求める。計算式は、If = ( Ep−Eg ) / Rf
© If が 1MΩ と大きいため Ip に比してとても小さな値でした。
E 仮想三極管のプレート電流 Ip = Ipo+If を、C と D の結果から求める。
© If の値が Ip に比してとても小さいく、ほとんど読み取り誤差の範囲となった。従い、C、D は省略し、Ip=Ipo として良いと考える。
F 得られた測定値は下記表となりました。
G Ep と Ip を特性図上にプロットした点を結んで、仮想三極管 (P-G 帰還) のグリッド電圧 Ein =−20V のEp−Ip 曲線の出来上がり!!
−10V から−90V のグリッド電圧 Ein 毎に Aから E の測定を行い作図した結果が、下図の仮想三極管 (P−G帰還) プレート特性図です。Ein=0 の曲線は、ベース五極管の Eg=0 の Ep−Ip 曲線のコピーです。 Eg=0 の外側 ( Eg>0 )は、グリッド電流が流れる禁断の地。点線はプレート損失 25W の曲線。
増幅率 μ は 6、内部抵抗 rp は 500Ω くらいでしょうか。
ベテラン諸氏は、プレート特性図を見ただけでどの真空管なのか言い当てることができるそうですが、どんな三極管に似ているのでしょうか、それとも、独特なのでしょうか?
それにしても、結構きれいでそれなり!!! 何かうれしい。ビールを飲もう。
一連の作図作業は、エクセルを使いました。ご参考まで。
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