超3極管接続(Ver.1) 50BM8 シングル・アンプ

試作4号機 総合利得

Ver.01 2015/12/07

Ver.02 2019/06/20

 

出力管V2のプレート負荷(出力トランスの1次インピーダンス)を7KΩとしたときの総合利得は、実測で10.5倍となりました。10KΩ負荷のときは実測で8.9倍でしたので、10KΩから7KΩにしたことで総合利得が1.2に増加しました。

一方、出力トランスのインピーダンス比による減衰率は、2次インピーダンスを8Ωとすると、1次インピーダンスが10KΩのときは0.028倍、7KΩのときのは0.034倍になりますから、出力トランス単体での利得比は、7KΩでは10KΩときの1.2となるはずです

ということは、出力管V2のプレート負荷が10KΩから7KΩになったにもかかわらず、出力管V2のプレートまでの利得は、ほぼ変化していない、ことになります。

6BM8(P)の普通の増幅回路なら、プレート負荷を10KΩから7KΩにすると、プレートまでの利得は、相互コンダクタンスと内部抵抗から概算すると0.8に落ちます。

どうゆうことでしょうか? 

理屈の上では、負帰還による作用と想定できますが、もう少し詳しく知りたくて、回路をトレースしました。

また、興味深いことも分かりましたので、まとめておきます。

 

 

 

 


♪ 回路をトレース

右図でトレースし利得を計算してみます。

帰還管V1のプレート−カソード間電圧Ep1は、出力管V2のプレート電圧Ep2とバイアスEc2で表すと、

Ep1=Ep2Ec

また、出力管V2のグリッドからプレートまでの増幅率をApとすると

Ep2=−Ec*Ap

従って、

Ep2Ep1/(1+1/Ap) ・・・ @

となります

@式から、増幅率Apが大きければ、Ep2Ep1とほぼ同じ値になり、V2の負荷に依存しないということが分かります。

 

 

 

仮に、初段回路の相互コンダクタンスが1mSだったとすると、±100mVの信号が入力されたとき、ドレイン電流(初段が真空管ならプレート電流)の変化量は±0.1mAです。帰還管V1の真空管抵抗値は404KΩだったので、この±0.1mAの電流変化により帰還管V1のプレート−カソード間には、±40.4V=±0.1mA*404KΩの信号電圧が現れます。(上図のEp1です。)

ここで、出力管V26BM8(P)のグリッドからプレートまでの増幅率Apは、プレート負荷が10KΩのときは約39倍、また、7KΩのときは30倍ですので、(V2gm=5.3mSrp=28KΩより計算)

出力管V2のプレートに現れる信号電圧Ep2は、@式から、

プレート負荷が10KΩのとき、Ep2Ep1/(1+1/Ap)40.4V/(1+1/39)39.4V

プレート負荷が7KΩのとき、Ep2Ep1/(1+1/Ap)40.4V/(1+1/30)39.1V

となります。

以上から、出力管V2のプレートまでの利得は、プレート負荷が7KΩのときは負荷10KΩのときと比べ、0.99=39.4V/39.1Vとなり、ほとんど変化しません

 

回路構成的には、帰還管V1のプレート(とカソード間)に現れる信号が出力管V2のプレート電圧とバイアスに塩梅よく分配される、ということでしょうか。

 


♪ 出力段の電流・電圧変換利得

先に初段からの信号電流がどう出力管V2のプレート電圧になるのかをトレースしました。ここでは、さらに、等価回路で出力段の電流・電圧変換利得を求めてみます。

帰還管V1を真空管抵抗としてみたときの抵抗値をRf、出力管V2の相互コンダクタンスをgm2としたとき、初段の負荷RL1は、下記で表すことができました。(「ロードラインを引いてみる」を参照)

初段の負荷RL1Rk1Rf/(RL*gm2+1) 

右図から、初段の負荷RL1を使って、出力段に信号電流IDが流れたとき、出力管V2のグリッドへの入力信号Ec2を求めると、

なので、

出力段を電流/電圧変換回路とみたときの利得Hoは、出力管V2の内部抵抗をrp2とすると

よって、

となります。

 

 

 

²  出力段を電流/電圧変換回路とみたときの利得は、帰還管V1の抵抗値で近似されることが分かりました。また、アンプの利得を稼ぎたければ、Rfを大きくすれば良いことになります。Rf=rp1+μ1*Rk1なので、増幅率の大きな3極管ほど利得面では有利です。

²  出力段の利得から、出力管V2のパラメータが消えてしまいました。 “深いP-G帰還” のなせる業かと思います。

 

 


♪ 回路全体の総合利得A

回路全体の総合利得Aは、初段を電圧/電流変換、出力段を電流/電圧変換と捉えると、先の結果から、以下のようになりました。

ここで、gm1=初段回路の相互コンダクタンス、Rf=帰還管V1の抵抗値

DtOPT1次から2次への電力損失(0.80.9位だそうです)

 

 

 


♪ ❶式はどのくらいの近似?

❶式は、近似式です。等価回路で導き出してしまうと、どのくらいの近似なのか直観的に把握しにくいのですが、先に使った図を見ると明らかで、出力管V2のプレートに現れる信号電圧(Ep2)は、帰還管V1Rf)のプレートに現れる電圧(Ep1)に等しいとしています。

こうやって見ると、ちょっと近似というより概算ですね。

 

 

 

 

試作3号機の実測値と❶式による計算値とを比較してみます。

❶式では、初段回路の相互コンダクタンスの値が必要です。この相互コンダクタンスの値は、「試作3号機 代替えFETの選択」で求めた、ドレイン電流の最大振幅の値とその入力電圧のデータがありますので、これらから求めることにしました。

下表が比較結果です。式の成り立ちから少なめに計算されますが、❶式は、設計時の概算としてはそこそこでしょうか

 

 

 

 


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