超3極管接続(Ver.1) 50BM8 シングル・アンプ

試作3号機 改造2の追試・リプル雑音

Ver.01 2015/12/7

 

試作3号機は、上條さんの改造記事にある改造2 初段をカスコード化」の追試です。

この改造2 初段をカスコード化」は、改造記事によると、初段をカスコード回路にして定電流性を高め、また、初段増幅素子をトランジスターからJ-FETに変更して回路をシンプルにする改造、とのことです。そして、この改造により残留ノイズが 98μVにまで改善したそうです。

 

 


♪ 改造前に考えた

そもそも、お手本とした電源回路(右図)にはリプルフィルターの回路がありません。実測で660mVのリプルを含んだ整流直後の電源を、そのままB電源としているにもかかわらず、試作1号機の残留雑音は、約0.8mV0.9mVでした。(お手本機は、もっと良くて0.54mV。)

何故、電源回路からリプルフィルター回路を省略できるのか、素人目にはとても不思議です。

そして、何故、初段回路の「定電流性を高める」改造で、残留雑音がさらに低下するのでしょうか?

 

上条さんの解説記事によれば、出力管V2のカソードとB電源を直結させたコンデンサー(*)にその秘密があるそうです。この秘密の中身を知りたくて、ぺるけさんの『真空管アンプの素』の136頁から141頁を読みながら、回路をトレースしました。以下、私なりに理解した事柄のまとめです。(誤解、曲解があるかも)

 

*:このコンデンサーの回路形態は、ミニワッターでお馴染みの「ショートループ・コンデンサー」と同じ形態です。以降、このコンデンサーを「ショートループ・コンデンサー」と記します。

 

 


♪ リプル信号の一次電流の流れと電圧値

B電源の残留リプルがスピーカから出力されるルートとしては、

@出力トランスの1次側に直接流れるルート

A出力管V2により増幅されるルート

があります。

そして、本回路ではあまり影響は無かったのですが、@とAは逆相です。

これらのことを意識しながらトレースします。

 

右図がトレースした回路です。出力トランスの1次側に直接流れるリプル信号と、出力管V2に入力されるまでのリプル信号の流れ(リプル信号の一次電流)を明示してみました。出力管V2により増幅されたリプル信号は記していません。

 

このリプル信号の一次電流の流れを見ると、ショートループ・コンデンサーC1を流れるルートは、C1の交流インピーダンスがとても低いので出力管V2のカソード(K2点)にはリプルが減衰せずそのまま現れます。このため、出力トランスの1次側に直接流れるリプル信号のルートは、通常の増幅回路と違っていて、リプル信号がOPTから出力管V2側には流れません。

 

 

 

 

 

下図は、各素子を抵抗器に置き換えて、C1を短絡した図で、リプル電圧を仮置きで1000mVとしています。Zo1は初段回路の出力インピーダンスで5.8MΩ、Rfは帰還管V1を抵抗器と見なしたときの抵抗で404KΩ、また、rp2V2の内部抵抗で0.2KΩです。

 

 

 

・初段回路の出力インピーダンス 5.8MΩ

2SA1775Aの簡易モデルを作り初段回路をシミュレーションして求めた値

・出力管V2の内部抵抗 0.2KΩ

 −P-G帰還後の値、「内部抵抗とダンピング・ファクター」を参照

@ 出力トランスの1次側に直接流れるルート

出力トランスの1次側に直接流れるリプル信号は、OPT1次側(10KΩ)V2の内部抵抗(0.2KΩ)の並列合成抵抗値が、0.2KΩ=10KΩ//0.2KΩ なので、0.03mVです。

OPT1次側の入力電圧が0.03mVのとき、2次側の出力電圧は、OPTのインピーダンス比から計算すると、1μV>0.03mV0.028)にも満たない値です。

 

A出力管V2により増幅されるルート

初段回路の出力インピーダンスZo1がとても大きいことから、出力管V2のグリッド(G2点−E点間)に現れるリプル信号は935Vもなります。通常の回路ですと、この935mVがそのまま出力管V2で増幅されることになります。しかし、ショートループ・コンデンサーC1により、出力管V2のカソードにはリプル信号1000mVがそのまま現れるので(K2点とB点が同電位)、差分の−65mVG2-K点間)だけが、出力管V2で増幅されることになります。

 

この−65mVは、どの程度増幅されて出力管V2のプレートに現れるのでしょうか? “深いP-G帰還”により、あまり増幅されないと思うのですが。

 

計算すると、出力管V2のグリッドからプレートまでの増幅率が大凡40倍で、プレートからグリッドに戻される帰還電圧が0.93倍=5.8MΩ/(5.8MΩ+404KΩ)なので、プレートに現れる出力電圧は、68mVとなります。

・(入力電圧+帰還電圧)*40倍=−出力電圧

・帰還電圧=出力電圧*5.8MΩ/(5.8MΩ+404KΩ)

65mV入力で68mV出力、増幅率はほぼ1倍(増幅してない!!

 

逆相の出力トランスの1次側に直接流れるリプル信号は0.03mVでしたので、この68VがそのままOPT1次側に印加されます。そして、OPT2次側に現れる残留雑音は、OPTのインピーダンス比(10KΩ:8Ω)とOPTの電力損失(推定で0.9倍)から求めると、1.7mV65mV*√(8Ω/10KΩ)0.9倍 です。

 

実際の整流直後の残留リプル電圧は660mVでしたので、スピーカ端子に現れる残留リプルは、

1.1mV660mV1.7mV/1000V

となるはずです。

 

 

 

☞ 残留雑音の実測値は、0.9V0.8mVでしたので、計算値1.1mVより低めになりました。これは、残留雑音の大半が残留リプルによる雑音だったとすれば、シミュレーションで求めた初段回路の出力インピーダンス値の5.8MΩが、実際は、もっと大きな値だったと推測しました。(仮に8MΩ〜9MΩくらいなら、残留リプルの雑音量は0.9mV0.8mVと計算されます。自製した2SC1775Aのデバイスモデルがもう一歩だった!?)

 

☞ 約40倍だった増幅率が約1倍になっています。 “深いP-G帰還”の “深い”って、こうゆうことなのですね。

 

 


♪ 何故、初段回路の定電流性を高めると改善されるのか?

理論的には、V2のグリッドとカソードが同電位になれば、増幅されるリプル信号はゼロです。カソード側のリプル電圧は減衰しないので、増幅されるリプル信号を少なくする策としては、

@     初段回路の出力インピーダンスを上げる(定電流性を高める)

A     帰還管V1の抵抗値を下げる

が考えられます。

今回の改造2は、初段をカスコード化することで@を実現させている、と理解しました。

 

 


♪  ミニ実験 カソードバイパス・コンデンサーに変更

出力管V2のカソードに入っているショートループ・コンデンサーC1が、カソードとアース間に接続される通常のカソードバイパス・コンデンサーだったとします。

先と同様に、このときのリプルの流れを考えると、今度は、直接OPT1次側を流れるリプル信号は、出力管V2側に流れることになります。

OPT1次側インピーダンス10KΩと比べて出力管V2の内部抵抗が0.2KΩと圧倒的に小さいので、残留リプル電圧がほとんどそのままOPT1次側に現れることになります。また、逆相の増幅されるリプル信号は、初段の出力インピーダンスが高くても出力管V2の内部抵抗の約200Ωが並列になるので、とても小さくなります。

従って、リプル雑音がドンと増えることが予想されます。

 

実際に、試作1号機で図のようにC2カソードバイパス・コンデンサーとする改造をしたところ、1mVを切っていた残留雑音が19V!となり、実用に耐えないアンプになってしまいました。

 

  

 


出力管V2のカソードとB電源を直結させたショートループ・コンデンサー、うまくできていますねぇ すごい!

 

 


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