超3極管接続(Ver.1) 50BM8 シングル・アンプ 試作3号機(改造2) 代替えFETの選択 |
Ver.01 2015/12/7
試作3号機として、上條さんの記事にある「改造2 初段をカスコード化」を追試します。下記の回路が、そのお手本回路です。 この回路では、初段のQ1は、2SK43というFETが用いられています。追試するにあたってこの2SK43が入手できれば良いのですが難しそうです。そこで、代わりのFETを探さなければなりませんが、上条さんがちゃんと代替品を次のように紹介して下さっています。『J-FETは1kΩ程度のソース抵抗でドレイン電流が0.5mAとなる、gmが20mS位のものを使用します。ここで用いた 2SK43 以外に、2SK117、2SK68 等が使えます。』(改造記事からの抜粋) また、Webで公開されている諸先輩方の作例を見ると2SK30も使用されています。というか、殆どの作例で、2SK30が使われています。それから、この2SK30よりgmの大きな2SK170はどうでしょうか? 入手面では、これらの候補のなかでは、2SK117、2SK30、2SK170は、入手が容易そうです。 また、これらのFETから代替品を選ぶとして、IDSSはどのランクでも良いのでしょうか? ヒントは、先の上條さんのコメントにありそうですが、トランジスタ−を勉強中の身としては、このコメントは判じ物のようで、判断ができません。そこで、データシートのグラフを眺めながら、FETの勉強をかねて地道に考えてみました。
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♪ 初段の回路 図は、初段のモデル回路です。この回路を使って調べてみることにします。
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♪ 初段回路の動作点−初めにドレイン電流ありき 今回の改造は、初段を2SC1755からFETに置き換えることだけですから、FETの動作点(入力信号がないとき)のドレイン電流の値は、自由に設計することはできません。その値は、帰還管V1の動作点のプレート電流となります。試作1号機の回路をシミュレーションしたときの帰還管V1の動作点のプレート電流は、0.59mAでした。安直ですが、この0.59mAをFETの動作点のドレイン電流値として、以降の検討を進めます。
必要となるドレイン電流の振幅は、出力段に聞かなければいけませんが、ここは、動作点を中心としてフルスイング(0mA〜0.59mA〜1.18mA)することを条件としておきます。フルスイングさせるとすると、IDSSは、動作点のドレイン電流の2倍以上は必要ですよね。なので、最低でもIDSSは1.2mA(>0.59mA*2)以上ないと困ります。(最初は、何からどう考えていいのか分からなくて、このことにすら思い至らなかった。トホホ。。。) ☞ 別章『ロードラインを引いてみる』で記述しますが、2W/8Ωの出力を歪みなく得るためのドレイン電流の振幅を机上で求めたところ、−0.51mA〜+0.54mAでした。フルスイングの約9割程度です。 また、ドレイン電圧はカスコード回路にすることから、気にしなくても良いと考えました。
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♪ 調査開始 2SK117はどうか?♬ まずは、IDSS=13mAから 最初にIDSS=13mAの2SK117を用いたときの回路の電圧状態を調べてみます。
♬ 動作点のバイアス電圧 右図は、2SK117のデータシートにある「ID−VGS」グラフです。各曲線のIDSSの値は明記されていませんが、一番上の曲線のIDSSは、13mAと読み取れます。 この一番上の曲線から、ドレイン電流IDが0.59mAのときのゲート・ソース間電圧VGSを読み取ると、随分と下にあって判読し難かったのですが、拡大して読み取ると−0.76Vくらいでした。従い、動作点のバイアス電圧(入力信号がないときのゲート・ソース間電圧)は、−0.76V程度になります。
♬ 入力電圧 動作点0.59mAを中心に増減するドレイン電流の振幅は、マイナス方向が先に頭うちになり、0mAまでです。 ドレイン電流が0mAになるときのVGSの値を、「ID−VGS」グラフを拡大して読み取ると、−0.92V位です。(この−0.92Vという値は、曲線が寝ている箇所のため読み取り誤差がありそうでちょっと心配な値です) 一方、回路図から、 Ein= VGS+ID*Rs ・・・ @ が成り立つので、ドレイン電流が0mAとなるときの入力電圧Einは、Ein=-0.92V+0mA*1.3KΩ=−0.92Vとなります。 また、逆に、入力電圧Einが+0.92Vのとき、@式が満たされるVGSとIDを「ID−VGS」グラフから読み取ると、VGS=−0.67V、ID=1.2mA位になります。 (電流帰還がかかっているとは言え、プラス振幅とマイナス振幅でIDの変化量に差分がある=そこそこ歪んでいますね)
これらから、入力電圧が0.65Vrms=0.92/√2のとき、ドレイン電流は、最大振幅0mA〜0.59mA〜1.2mAとなります。 また、最大出力2W/8Ωが得られる入力電圧は、この電圧の約9割=(0.51mA〜0.54mA)/0.59mAなので、0.6Vrms程度となりました。
☞ 今回は、データシートにある「ID−VGS」グラフを活用しましたが、このグラフと「VGS(OFF)−IDSS」グラフとでは、ID=0mAとなるVGSの値が一致しないので困りました。VGS(OFF)ってID=0mAとなるVGSではないのでしょうか?
♬ ソース抵抗の値 IDSS=13mAのときのソース抵抗Rsの値は、動作点のVGSが−0.76Vだったので、 Rs=|動作点のVGS/動作点のID|=|-0.76V/0.59mA|=1.3KΩ となります。 |
♬ その他のIDSS同様の手法で、「ID−VGS」グラフに記載されているIDSSについて、いくつか調べてみました。 |
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下表は、調べた結果のまとめです。 また、6ヶのデータが得られたこともあり、IDSSとバイアス、入力電圧の関係をグラフにしたところ、概ね一次関数の関係となることが分かりました。データシートに記載されていないIDSSでも所要のバイアスや、入力電圧を概算できそうです。
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♬ 2SK117のIDSSのランク選択まとめの表から、どのランクでも、1Vrms未満の入力で所要の電流振幅が得られそうなことが分かりました。また、IDSSが小さくなるほど感度が上がりますが、その分、電流帰還量が少なくなり、歪みが増えると予想されます。ランクは、入力感度との相談ですが、BLランクが良さそうです。 2SK117のIDSS 分類 Y: 1.2~3.0 mA, GR: 2.6~6.5 mA, BL: 6.0~14.0 mA (規格表から転記)
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同様の手法で、2SK30に関して、調べてみました。 規格表の「ID-VGS」のグラフに記載されている曲線のIDSSは、6.0mA〜0.5mAまでの6ヶですが、D、Eは、IDSSが動作点のIDの2倍以下なので、検討対象外とします。 |
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下表は、調べた結果のまとめです。
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♬ 2SK30のIDSSのランク選択 まとめの表から見ると、2SK30のgmは2SK117に比べて小さいので、選択の幅が狭くなり、ランクというよりIDSSで選ばないと、所要の出力が得られないことになりそうです。 2SK30のIDSS 分類 R: 0.30~0.75 mA, O: 0.60~1.40 mA, Y: 1.20~3.00 mA, GR: 2.60~6.50 mA (データシートから転記)
☞ 電流帰還を止めて、バイパスコンデンサーを取り付ければ、利得は稼げるでしょうが、歪み率が悪化します。出力段が低歪みなので、アンプ全体の歪み率を悪化させてしまい、勿体ない感じがします。
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同様の手法で、2SK170に関して、調べてみました。 尚、規格表の「ID-VGS」のグラフに記載されている各曲線は、多少のずれがあるように読めました。 |
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下表は、調べた結果のまとめです。
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♬ 2SK170のIDSSのランク選択 大は小を兼ねるとしても、GRはいささか高感度かと思いました。Vランクは、表には無いのですが、感度が鈍くなって良さそう? 2SK170のIDSS 分類 GR: 2.6~6.5 mA, BL: 6.0~12 mA, V: 10~20 mA(データシートから転記)
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♪ 使用するFETとIDSS ネットで探したところ、2SK117と2SK170の選別品を入手することができましたので、両方を試作3号機で試してみることにしました。IDSSを実測したところ、2SK117が8.7mA、2SK170が9.9mAで、良く揃っていました。 2SK30は、感度が鈍そうとなったので今回は遠慮しました。
使用する2SK170と2SK117のバイアス値や入力電圧は、2SK170はデータシートから求めたIDSS=10mAの値、IDSS=8.7mAの2SK117は、データシートから求めたIDSS=10.6mAとIDSS=8.0の値を、8.7mAで比例案分した値とすると、次にようになるはずです。
このようにしてデータシートから求めたバイアス値や入力電圧ですが、別途、実測値と比較してみたいと思います。 実測値と比較してどの程度の差異になるのでしょうか?
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