超3極管接続(Ver.1) 50BM8 シングル・アンプ

内部抵抗とダンピング・ファクタ

Ver.01 2015/12/7

 

試作1号機の特性で目を見張るのが、ダンピング・ファクタの高さです。実測で10でした。

ダンピング・ファクタが高いということは、出力管の内部抵抗が低いということです。今回の制作で、いろいろ勉強させてもらった「超三極管接続の考え方と設計指針」によれば、「超三極管接続回路」は、深いPG帰還によって低い内部抵抗を得ているそうです。

A-0は、お手本とした「超3極管接続Ver.1 6BM8 シングル ステレオパワーアンプ U」の増幅回路です。

この増幅回路の中で、点Pから点Cまでの間の回路は、「真空管抵抗」と呼ばれる回路で、外部からみたらほとんど1本の抵抗器と等価、だそうです。そこで、この三極管V1を抵抗器Rfに置き換えた回路が、図A-1です。こうして三極管V1を抵抗器に置き換えた回路図に変換してみると、なるほどP-G帰還であることが良くわかります。(三極管V1を「帰還管」と呼ぶそうですが、言い得て妙だと思います。)

 

P-G帰還という視点で、お手本とした「超三極管接続回路」の出力管の内部抵抗を計算してみます。いったい何Ωになっているのでしょうか? 

 

  

 


♪ V1V2の動作点での三定数

内部抵抗を計算する準備として、V1V2の動作点での三定数を求めておきます。お手本の記事には、V1V2の動作点は、明確に記載されていませんので、お手本の回路図に記載された電圧値をシミュレータ回路に設定して、V1V2の動作点求め、次いで、この動作点での三定数を得ました。

 

 

 

 


♪ 出力管V2の内部抵抗の等価式

五極管にP-G帰還を施した回路をひとつの真空管(仮想的な三極管)と見なしたとき、その特性は、三極管的な特性となり、内部抵抗は、次のようになります。

ここで

 

 ☞ この辺りは、私のP-G帰還に関するつたない考察「4.1 仮想三極管の三定数 をご参照下さい。

 

この❶式から明らかなように、P-G帰還後の内部抵抗は、帰還抵抗RfRsの値が分かれば、計算できるということになります。以下、順に、お手本とした「超三極管接続回路」の帰還抵抗RfRsの値を求めていきます。

 


♬ 帰還抵抗Rfの値

帰還抵抗Rfは、帰還管V1を抵抗器と見なしたときの抵抗値です。右図は、帰還管V1部分の回路の等価回路です。この等価回路を使って、Rfを求めてみます。

P点とE点に交流電圧eaを与えたときに、流れる交流電流をiaRk1の端子間に現れる交流電圧を−ec、帰還管V1の増幅率をμ1、内部抵抗をrp1とすると、等価回路から、次の2式が成り立つことが分かります。

この2式から、点Pから点Gの間の抵抗値をRfとすると、Rfは、

となります。

 

❷式に、V1の三定数の値とRk1の値を代入すると、Rfの抵抗値は404KΩとなりました。

 

 

 


♬ 帰還抵抗Rsの値

帰還抵抗Rsの値は、帰還管V1のカソード抵抗Rk1と初段の出力インピーダンスを加算した値です。

お手本回路の初段は、トランジスターの電流帰還回路です。トランジスターの振る舞いは、勉強不足で、エミッタ抵抗Reが与えられたエミッタ共通(コモン)回路の出力インピーダンスを、どのように計算すればよいのか分かりません。

そこで安直にTinaでシミュレーションしてみたところ、5.8MΩとなりました。(2SC1775Aのデバイスモデルは、規格表から適当に作りました。)

カソード抵抗Rk1は、出力インピーダンス5.8MΩに比べ、無視できるほど小さいので、Rsの値は、5.8MΩとなりました。

Rs=初段の出力インピーダンス+帰還管V1のカソード抵抗Rk15.8MΩ 

 

   

 


♪ 出力段の内部抵抗を計算

これで元ネタが揃ったので、❶式から、P-G帰還を施した出力管V2の内部抵抗の値を計算すると、202Ωとなりました。

多量の負帰還(P-G帰還)のお蔭で、28.5KΩだった6BM8(P)の内部抵抗が、見かけ上202Ωにまで低下していました。

  

♬ 帰還量

Rsの抵抗値5.8MΩは、Rfの抵抗値400KΩと比べて10倍以上となるとても大きな値です。帰還量β=Rs/(Rs+Rf)は、0.9以上になりました。“深いP-G帰還”と言われるだけのことはあります。

 

 


♪ ダンピング・ファクタを計算

OPT(ITS-2.5WS)の端子間の抵抗値を実測し、出力管V2の内部抵抗値=202Ωを元に、試作1号機のダンピング・ファクタを計算したところ、10.0となりました。

実測値10と良く合っています。

 

*:OPT2次端子間抵抗の値0.4Ωは、有効桁が少数点第1位までのDMMで測定した値で、接触抵抗や誤差もある数値です。仮に0.5Ωならダンピング・ファクタは9、また、0.3Ωなら12と計算されます。

 

  ダンピング・ファクタを求める計算式

 

 


Note1

シミュレーションで求めた初段の出力インピーダンスは5.8MΩでしたが、自製した2SC1775Aのデバイスモデルがいまひとつだったようで、実機は、8MΩ〜9MΩくらいはあるようです。9MΩで内部抵抗値とダンピング・ファクタを再計算すると197Ωと10.1となりました。ここまで大きいと、5.8MΩでも9MΩでも内部抵抗値に差は出ませんね。

 

Note2

SP側から見たアンプの内部抵抗は、0.8Ωでした。この0.8Ωを構成する要素は、@ OPT2次端子間抵抗、A SP側から見たOPT1次端子間抵抗、B SP側から見た出力管の内部抵抗の3ケです。

今回の試作1号機でのそれぞれの値を見ると、BのSP側から見た出力管の内部抵抗は、SP側から見たアンプの内部抵抗全体の2割にすぎません。これでは、極めて低い内部抵抗を得ることができる超三極管接続回路の特徴を生かし切れていない印象です。

端子間の直流抵抗がとても小さい(らしい)TAMURAF-2003あたりでヒアリングできたらなぁ、などと妄想してしまいます。

また、諸先輩方の超三極管接続の作例のなかで、OPT2次側からオーバオールに負帰還をかけた作例を何件か拝見しました。オーバオールの負帰還であれば、OPTの端子間の抵抗を見かけ上小さくできるので、このあたりを意識されての制作かもしれない、などと思いました。

 

Note3

OPTの端子間抵抗が大きいため、SP側から見た出力管の内部抵抗は、SP側から見たアンプ全体の内部抵抗の2割にすぎませんでした。

2割にしかならない数字を求めるにしては、❶式から計算するためには動作点の3定数や帰還抵抗RsRfの値が必要で手間がかかります。ダンピング・ファクタを概算するだけなら、帰還量β=1として❶式を丸めた 内部抵抗≒1/gm で計算しても大差は無いかと思います。

実際、日立の規格表にあるEp100Vの動作例の数字(gm=6.8mS)で計算すると、出力管の内部抵抗は147Ω≒1/6.8mSで、202Ωと比べると差異がありますが、この147Ωを使って求めたダンピング・ファクタは10.6となり、10.0と大差はありません。

 

Note4

今回、イチカワのITS-2.5WSを、一次側5KΩ、2次側4Ωの端子で使用し、8Ωのスピーカーを接続したときの1次側インピーダンスが10kΩになるようにしています。イチカワのITS-2.5WSは、一次側に3KΩ、5KΩ、7KΩの端子がありますので、同様の使い方で、6KΩ、14KΩでの使用が可能です(*1)。そこで、1次側インピーダンスを、3KΩ、5KΩ、7KΩ、6KΩ、10KΩ、14KΩとしたときのダンピング・ファクタを計算してみました。

インピーダンスが7KΩのときは、ダンピング・ファクタは7.0でした。7KΩも良さそうです。

 *1:このような用法は、あまりお勧めできないそうです。

 

 

 

 

 


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