真空管の特性を数値で表す要素として、増幅率 μ、相互コンダクタンス gm、内部抵抗 rp の三定数があります。五極管 Vb に負帰還抵抗 Rs、Rf を付加した P-G 帰還回路全体をあたかも 1 本の仮想的な三極管 Vf と見なした場合、Vf の三定数 (μf、gmf、rpf) は、Vb の三定数(μ、gm、rp) からどのように変化するのでしょうか?
先のプレート特性図を描いた手法を流用し、下図の白点線枠で囲まれた2 ヶの抵抗とベース五極管 Vb から構成される P-G 帰還回路全体を仮想的に三極管 Vf と見立て、その三定数を測定するイメージで、仮想三極管の三定数を導き出してみます。
仮想三極管の三定数を導き出す流れは、
@ 仮想三極管 Vf の三定数を測定
A 測定回路の動作を解析
B 解析結果から Vf の三定数を Vb の三定数で表現
とします。
ベースとなる五極管の三定数を、μ、rp、gm、
負帰還抵抗をRs、Rf、
仮想的に見立てた三極管の三定数を、μf、rpf、gmf。
とします。
図2 が仮想三極管 Vf の測定回路です。
測定は三種類行います
★測定1では、内部抵抗を求めてみます。
内部抵抗は、Vf のグリッド電圧 Ein を一定にしてプレート電圧 Ep を変化させ、プレート電流 Ip の変動を求める測定で良いかと思います。
★測定2では、相互コンダクタンスを求めてみす。
相互コンダクタンスは、Vf のプレート電圧 Ep を一定にしてグリッド電圧 Ein を変化させ、プレート電流 Ip の変動を求める測定で良いかと思います。
★測定3では、増幅率を求めてみます。
増幅率は、プレート電源を定電流源に置き換えて Vf のグリッド電圧 Ein を変化させ、プレート電圧Ep の変動を求める測定で良いかと思います。
@ 内部抵抗の測定
入力電圧 Ein を一定として、プレート電圧 Ep をEp だけ増加させて各電圧、電流を測定する。
仮想三極管 Vf の所作としては、グリッド電圧 Einは一定で、プレート電圧 Ep をEp 増加させたところ、プレート電流がIp 増加した、となる。
従い、仮想三極管 Vf の内部抵抗 rpf は、rpf=Ep /Ip で得られる。
A 測定回路の動作
プレート電圧がEp 増加したことにより、
© 負帰還抵抗Rs の両端電圧が上昇し、グリッド電圧が同じく上昇する。その値は、
僞g=Rs/(Rs+Rf)*僞p=β*僞p β=Rs/(Rs+Rf)
この動作は、負帰還抵抗により β 倍の出力信号が入力 (グリッド) に戻される負帰還の所作と思われます。
© 五極管Vb のプレート電流が増加する。その値は Ipo だったとする。
© 帰還抵抗を流れる電流が増加する。その値は、If=Ep/(Rs+Rf) のはず。
© P-G 帰還回路全体を流れる電流 (仮想三極管のプレート電流) Ip は、Vb に流れる Ipo と If の合計値分増加する。
Ip=Ipo+If
B 内部抵抗の等価式
この測定動作での測定前の点を A 点、動作後の点を B 点として、Vb、Vf それぞれのプレート特性図上にプロットする。また、ベース五極管 Vb のプレート特性図上で、C 点、D 点を図のように置く。
Vb、Vf それぞれのプレート特性図は、プレート電圧は等しいが、プレート電流は Ipo、Ip であり異なる点に注意。例えば、動作開始点 A は、プレート電圧は同一であるが、プレート電流はVb は If 分小さい。
ベース五極管の D 点から B 点のプレート電流Ipo を分解して、Ip1 を D 点から C 点のプレート電流変化値、僮p2 を C 点から B 点のプレート電流変化値とすると、図から明らかなように、Ip1 は rp から、Ip2 は gm から得ることができ、
それぞれ、Ip1=Ep/rp、Ip2=gm*Eg となる。従い、
一方 僞g=β*僞p だったので、上記の式に代入し変形すると
次に、内部抵抗 rpf を変形すると、A から、Ip=Ipo+If なので
以上から、仮想三極管の内部抵抗 rpf を表す等価式は以下となりました。
@ 相互コンダクタンスの測定
プレート電圧Ep を一定として、入力電圧Ein をEin 増加させてプレート電流の増加量を測定する。
仮想極管 Vf の所作としては、プレート電圧 Ep は一定で、グリッド電圧をEin だけ増加させたところ、プレート電流がIp 増加した、となる。
従い、仮想三極管の相互コンダクタンス gmf は、gmf=Ip /Ein となる。
A 測定回路の動作
© 入力電圧 Ein の上昇によりベース管 Vb のグリッド電圧 Eg が上昇する。その増加量は負帰還抵抗により分圧された値で
Eg=Rf /(Rs+Rf) *僞in=(1−β) *僞in となる。
このことは、入力信号の全てがグリッドに印加されず、負帰還抵抗で (1−β) 倍に分圧(減衰)されてしまう、ということを指していると思われます。
© ベース五極管Vb のグリッド電圧Eg の上昇により負帰還抵抗を流れる電流 If が減少する。減少量は、If=Ein/(Rs+Rf)
このことは、入力信号が負帰還抵抗を経由してプレート側(出力側)に流れ込んでいるが、この電流量が減少した、と表現して良いかと思います。
© ベース五極管Vbは、グリッド電圧 Eg がEg 増加し、プレート電圧 Ep は一定なので、プレート電流 Ipo は、相互コンダクタンスの定義から、Ipo=gm*Eg 増加したはずである。
© また、P-G帰還回路全体を流れる電流Ipの増加量は、Vbに流れるIpo からIf を減算した値のはず。
Ip=Ipo−If
B 相互コンダクタンスの等価式
この測定動作での測定前の点を A 点、動作後の点を B 点として、Vb、Vf のそれぞれのプレート特性図上にプロットする。
一方、 僮p=僮po−僮f なので、相互コンダクタンス gmf は
以上から、仮想三極管の相互コンダクタンス gmf を表す等価式は以下となりました。
(メモ)
© Gmf の第一項の “(1−β)*gm” は、入力信号の全てがグリッドに印加されず、負帰還抵抗で (1−β) 倍に分圧 (減衰) されてしまうため gm が見かけ上 (1−β) 倍となることを意味している。
© Gmf の第二項の “−1/(Rs+Rf)” は、入力信号が負帰還抵抗を経由して直接プレートに流れ込むため gmf は見かけ上 1V/(Rs+Rf) Ωだけ小さくなることを意味している。
@ 増幅率の測定
プレート電源を定電流源としプレート電流 Ip を変化させないで、入力電圧 Ein をEin 増加させる。このとき、プレート電圧 Ep がEp 減少したとする。
仮想的に見立てた三極管の所作としては、プレート電流 Ip を一定として、グリッド電圧 Ein をEin 増加させたところ、プレート電圧 Ep がEp 減少した、となる。
従い、仮想三極管の増幅率 μf は、μf=−Ep/Ein となる。
A 測定回路の動作
この測定では、プレート電圧と入力電圧の両方が変化します。一遍に動作を解析できれば良いのですが難しいので、それぞれ分けて動作を解析しました。
© 入力電圧 Ein の増加のみに着目すると (プレート電圧の変化をゼロとした場合)
ベース五極管 Vb のグリッド電圧 Eg が増加する。その増加量は、負帰還抵抗により分圧されるので
Eg1=Rf/(Rs+Rf) *僞in=(1−β) * 僞in となる。
このことは、入力信号の全てがグリッドに印加されず、負帰還抵抗で (1−β) 倍に減衰されてしまう、ということを指していると思われます。
また、負帰還抵抗を流れる電流 If が減少する。減少量は、If1=−Ein/(Rs+Rf)。 Ip=0なので、Ipo1=−If1、のはず。
© プレート電圧 Ep の減少のみに着目すると (入力電圧の変化をゼロとした場合)
ベース五極管 Vb のグリッド電圧Eg が減少する。その減少量は、負帰還抵抗により分圧されるので
僞g2=Rs/(Rs+Rf)*僞p=β*僞p となる。
この動作は、負帰還抵抗により β 倍の出力信号が入力 (グリッド) に戻される負帰還の所作そのもの。
また、負帰還抵抗を流れる電流 If が減少する。減少量は、If2=−Ep/(Rs+Rf)。 Ip=0なので、Ipo2=−If2、のはず。
© 従い、ベース五極管 Vbは、グリッド電圧 Eg が Eg=Eg1+Eg2 増加し、プレート電流 Ipo は、Ipo=−(If1+If2) 増加したはずである。
B 増幅率の等価式
この測定動作での測定前の点を A 点、動作後の点を B 点として、Vb、Vf のそれぞれのプレート特性図上にプロットする。
また、ベース五極管のプレート電圧に着目すると、A 点と C 点間電圧は −μ*Eg なので、
式3−3 に 式3−1、式3−2 を代入すると、
Ep について解くと
従い、式3-4 から、仮想三極管の増幅率 μf を表す等価式は以下となりました。
真空管の三定数の定義から、増幅率=内部抵抗*相互コンダクタンス なので
さらに変形
先の結果と同じ式となりました。
右図の仮想三極管 (P-G 帰還) の三定数は、以下となりました。( 三定数式群A )
μ、rp、gm ベース管Vbの三定数
#1 変形過程
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