WaveSpectraを用いた歪率の測定 測定系の評価編

 

ループバック接続で歪み率を測定し、性能を確認しました。

 


<測定1:減衰無し>

ノート・パソコンの Headphone 端子と Microphone 端子を折り返して接続し、WG で生成した信号をダイレクトに WS に入力、100Hz1KHz10KHz、の歪み率( WSの「THD+N」の値 )を測定しました。WG Headphone端子) の出力電圧 Vo は、パソコンの出力ボリュームは使わず、WGソフトの出力レベル・パラメータで変化させています。

    

各周波数とも出力電圧が 10mV から 300mV 程度までは、右肩下がりの直線となりました。最低歪み率は、100Hz0.022% 1kHz0.028%10kHz0.0253%でした。100Hz 1KHz 300mV を超えると、また、10KHz 400mV を超えると、急速に歪み率が悪化しました。また、10KHz は、歪みが頭打ちになりマカ不可思議な特性です。

  

歪み率の特性での右肩下がりの直線部分は、雑音の大きさを表しているのだそうです。(ぺるけさん著書「真空管アンプの素 159 頁) 出力電圧Voに歪み率を掛けて、雑音電圧(+歪み電圧)を計算し、グラフ化してみました。上記の右図です。

雑音・歪み電圧=WG出力電圧 * 雑音歪み率

雑音・歪み電圧は、10mV から 100mVの間はほぼ一定で、各周波数とも 0.050mV から 0.052mV 程度でした。 100mV くらいから増え始めていますが、これは、PC内蔵インターフェースの歪み成分でしょうか。

 

*  安定性−歪み率の最大値と最小値

WS の歪み率 THD+N の表示は、小数点以下 5 桁( 0 . XXXXX % まであります。測定してみると下位の数値が変動しました。2桁はほぼ安定、4桁はなんとか読み取りが可能です。測定1のループバック接続の測定では、最大値と最小値を記録しました。1KHzの最大値だけ(青線)、また、最小値だけ(赤線)の値でグラフ化してみました。それなりに差異はあったのですが、グラフ化すると線がほぼ重なってしまいました。日を置いて何度か測定しました。結果は同じで変動はありませんでした。目が疲れました。。。

 


<測定2ATTで固定的に1/10に減衰>

測定1 では、WG 出力電圧 WS 入力電圧が 400mV を超えると歪みが急増していました。この歪みが急増した理由はWS側にあるのか、WG側にあるのか、調べてみます。

ループバック接続の途中にアッテネータを挿入して WS 側への入力電圧を 1/10 に絞ります。こうすることで、歪んでしまった1000mVの出力電圧が、歪まなかった100mVの電圧となります。この減衰した100mVが歪めば、原因はWG側にあり、歪まなければ原因はWS側にある、となります。

アッテネータの抵抗は、WG 側から見た負荷インピーダンスを変化させない値としました。具体的には、WS 側の入力インピーダンスが 4.2KΩ だったので、R13.3KΩ+690Ω、R2470Ω としました。

 

WG側の出力電圧=100mVから1000mVWS側の入力電圧=10mVから100mVの間で測定しました。左図が歪み率特性、右図が雑音特性で、横軸はWS側の入力電圧Vinです。赤線が 1/10 倍に減衰させた場合で、比較のため減衰しなかった場合の特性を青線で追記してあります。1/10倍に減衰させた場合、WG側の出力電圧=100mV1000mV WS側の入力電圧=10mV100mV 間で、雑音はほぼ一定で、0.022mVとなりました。

このことから、測定1WG 出力電圧 WS 入力電圧が 400mV を超えて歪み率が急速に悪化した理由は、WS側(Microhon端子)の入力電圧の許容値を超えたためと想定されます。WG側(Headphone端子)の出力信号は、10mVから1000mVまでほぼ一定の雑音・歪み電圧でした。

 

 


<雑音が1/10倍にならなかった理由>

測定2では、WGの出力信号に含まれる雑音は、1/10倍になっているのですが、測定した結果、雑音が1/10倍となりませんでした。何故なのでしょうか?

最初は判らなかったのですが、測定系の雑音は、WG 側だけなくWS 側でも発生している! と気がついてようやく理解できました。

下図は、測定系の雑音イメージ図です。WG側で発生した雑音は、アッテネータで信号とともに減衰されるので、1/10倍になります。仮に0.04mVだったすると0.004mVです。一方、WS側で仮に0.02mVの雑音が発生しているとします。この雑音は、アッテネータでの減衰にかかわらず、0.02mVのままです。従い、アッテネータで減衰した場合、0.004mV0.02mVとなり、1/10倍にはなりません。

 

<雑音量>

WG 側で発生している雑音と WS 側で発生している雑音は、互いに共通する周波数があるでしょうから、単純に0.004mV0.02mVと加算はできないと思います。WS 側で発生している雑音をNs mVWG 側で発生し WS 側で発生している雑音によりマスクされない 重ならない 雑音を Ng1mV とすると

従って、Ns=0.019mVNg1=0.032mV、となりました。

 

 


WG側の歪み>

*  測定3 ATTWS入力電圧を一定になるよう減衰

歪み率が上昇に転じるあたりのWG の出力電圧が340mVまではアッテネータで減衰せず、340mV以上では、WS の入力電圧が常に340mVとなるようようアッテネータで減衰させました。アッテネータは、(厳密には定インピーダンス型が良いように思えますが保有していないので)、WS 側の入力インピーダンスとの兼ね合いから保有する 50KΩ(A型) としました。

 

   

 

測定の結果、ATTで減衰させる340mV以上の領域で、ゆるやかな右肩あがりとなりました。また、この右肩あがりの部分で、WSへの入力電圧をアッテネータで更に絞っても緩めてもブロードに歪み率は変化しました。最低歪み率は0.22%で、残留雑音は、0.05Vでした。

WS側は、340mV以上ではなんらパラメータを変化させていないにもかかわらず歪み率が340V以上で増加した理由は、WS側への入力信号の歪み率が増加、つまりWG側の歪み率が増加したことになります。「ループバック接続雑音・歪み電圧」のグラフから推定すると、WG側は200mVくらいまではTHDNは一定かと思われます。

 

 


ATTの使い方>

*  測定4 実際のアンプを測定

実際の出力アンプの歪み率測定では、アッテネータでどのように入力電圧を調整したら良いのか?最大出力 ( 5% 歪み ) 近傍の測定ならば、0.1% 程度は誤差の範囲とすると、500mV くらいまではWSへの入力電圧は許容できそうです。

実際のアンプ 6DJ8 ミニワッター・シングル を使って、アンプの出力電圧を固定し、ATT の減衰量をパラメータ(WS の入力電圧をパラメータ)とした歪み率の変化を測定しました。固定した出力電圧は 1434mV で、このときの歪み率は 4% あたりです。(5%になる出力電圧にすれば良かった)

結果は、WS の入力電圧は、100mV から500mV まで、ほぼ一定の歪み率となりました。

従い、実際の測定では、

©  出力電圧が400mVくらいまでは、アッテネータで絞らない。(出力電圧が400mVということは負荷8Ωで出力0.02W

©  出力電圧が400mV以上では、WS への入力電圧を“一定”にする(WSMAX表示は、概ね−10dBくらい)。一定にする際のアッテネータの調整は、おおまかで良い。

  

拙い測定説明なので測定結果の値も示します

WG

Vo
アンプ出力

アンプ出力

ATT
減衰量

Vin  WS入力電圧

WS

Max

WS THD,+N

最小

最大

平均

dB

mV

mW

mV

dB

%

%

%

0

1434

257

0.07

103

-20.99

4.072

4.080

4.076

0

1434

257

0.13

190

-16.03

4.056

4.075

4.066

0

1434

257

0.15

214

-15.01

4.031

4.014

4.023

0

1434

257

0.17

243

-13.99

4.034

4.046

4.040

0

1434

257

0.19

273

-13.01

3.974

3.999

3.987

0

1434

257

0.21

306

-12.01

4.002

4.011

4.007

0

1434

257

0.24

346

-10.99

3.996

4.001

3.999

0

1434

257

0.27

387

-10.02

3.995

4.004

4.000

0

1434

257

0.30

436

-9.01

3.937

3.946

3.942

0

1434

257

0.34

491

-8.00

3.900

3.923

3.912

0

1434

257

0.40

570

-7.01

5.518

5.529

5.524

0

1434

257

0.47

667

-6.51

11.268

11.275

11.272

0

1434

257

0.63

909

-6.00

20.755

20.751

20.753

 

 


2次歪み率、3次歪み率>

Spectrum表示ウィンドウには基本波や高調波が表示され、波形の振幅値を読み取ることができます。少々手間ですが、振幅値を読み取り、2次歪み率、3次の歪み率を求めることができました。

 基本波

 

 
角丸四角形吹き出し: 3次高調波角丸四角形吹き出し: 2次高調波     

 


<ノートPCの入出力インピーダンス>

*  WaveSpectraの入力端子(Micorophone端子)の入力インピーダンス

WaveSpectraの入力端子であるノートパソコンのMicorophone端子の入力インピーダンスを測定しました。低周波発振器の出力をMicorphone端子に接続して低周波発振器のATTで出力電圧を500mVに調整します。次にノートパソコンの代わりに可変抵抗を接続し、出力電圧が先ほどと同じ500mVになるよう可変抵抗の値だけを調整します(低周波発振器のATTは触りません)。同じ値の500mVなる抵抗値がMicorophone端子の入力インピーダンスのはずです。

このようにして測定した結果、Micorophone端子の入力インピーダンスは、4.2KΩでした。結構低い。。。

*  WaveGeneの出力端子(Headphone端子)の出力インピーダンス

WaveGeneの出力端子であるノートパソコンのHeadphone端子の出力インピーダンスをOn-Off法で測定したところ、出力インピーダンスは76Ωでした。

 


<基本的な性能>

以上から、基本的な性能をまとめると

¬  測定範囲 0.03% ~

¬  残留雑音 0.05mV 以下

¬  WS側の共用入力電圧 10mV ~ 400mV くらい

¬  WS側の入力インピーダンス 4.2KΩ

¬  低周波発振機能(WG側)

Ø  出力電圧 10mV  ~ 1V  

Ø  出力インピーダンス 76Ω

Ø  出力電圧が200mVくらいまでは、THD+Nは一定

¬  測定確度 不明、真空管アンプビルダーのアマチュアが使う分には十分みたいです

¬  測定機能 THDTHDN、基本波電圧、高調波電圧、全帯域のスペクトラム、他多数

 

注意 パソコン内蔵の DSP を使用した値でありパソコン次第で変わると思われます。高性能パソコンや、外部オーディオインターフェースを使えば、良い値となるはず。

 


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