ロードラインから2次歪み率と3次歪み率を算出する  from 「SYLVANIAマニュアル」

 

ロードラインから歪み率をもとめる手法には、最大電流値 Ipmax、最小電流値 Ipmin、及び、動作点の電流値 Ipo から、次の式@ で2次高調波の歪み率を計算する手法があります。

式@ の分子の項は 2次高調波の波高、分母の項は 基本波の波高を表すそうで、いつも勉強させてもらっている中林さんのホーム頁に詳しい解説(電脳時代の真空管アンプ設計--第3 電力増幅回路 2.1.4 歪率)があります。

 

この手法は、歪みの主成分が 2次歪みである三極管の場合には有効、では、3次歪み成分が多くなる多極管ではどうしたら求められるのでしょうか?

 


五極管の歪み率

真空管マニュアルをぱらぱら眺めていたところ、SYLVANIAのマニュアル 『1959 Sylvania tube manual Appendix 6V6 を例題として歪み率を求める手法の記載が見つかりました。 

Webで真空管マニュアルを多数公開しているサイト 「 tubebooks.org  」 さんに多謝!

 

このSYLVANIAのマニュアルによれば、

グリッド電圧が、動作点(O点)のグリッド電圧Eco0.293 1.707 の電圧となる B点と C点をロードライン上に求める。この B点と C点のプレート電流を Ip1 Ip2とすると、A式、B式により(最大出力時)の歪み率が計算できる。

 

尚、上記のEc1Ec2の計算式は、グリッド電圧を0Vまで振ったときの最大出力のときの計算式であり、グリッド電圧を0Vまで振らないときは、入力信号を Ein Vp-pとすると

Ec1Eco0.707Ein/2 ・・・ 式D

Ec2Eco0.707Ein/2 ・・・ 式E

のはずです。以降の計算は、式D、式EでEC1EC2を求めています。

 

 


検証

検証というほど大げさなものではないが、2次歪み、3次歪みの記載がある真空管マニュアルを捜したところ、Cunninghamの古典管「47」の真空管マニュアルに、動作点を

Ep250V

Esg=250V

Biass=−15.3V

としたときの、負荷抵抗の大きさに対する歪み率のグラフが記載されていた。このグラフを拡大して、7KΩ負荷のときの歪み率を読み取ると、

2次歪み=0%

3次歪み=6%

くらいである。

 


次に、先のSYLVANIAのマニュアルの方法で、「47」の7KΩ負荷での歪み率を式A、B で計算してみた。

動作点をEpEsg=250VBiass15.3Vとして、負荷7KΩのロードラインから、各点のプレート電流を読みとると(#)

これらのプレート電流の値をA式、B式に代入し、歪み率を求めると、

となった。

 

概ね一致と言えるかと思う。

 

# ロードライン上のグリッド電圧に対するプレート電流の読み上げ方法は、「ロードラインをサクサクっと」を参照

 


もうちょっと検証

入力電圧が小さいときや、負荷がロードラインの肩より上下になったときの式A、Bの精度はどうなのでしょうか?

  

いい感じだったこともあり、いくつか実測して比較してみました。ただし、実測と言っても、シミュレータ Tina7 を使ったシミュレーション測定です。( Tina7 にはフーリエ解析の機能があり、基本波、n次高調波の振幅の実効値が測定できます。)

測定は、6V6を使った下記の回路で行いました。動作点は、Ep=250VIp=45mABiass=12.5VEsg=254.48Vとしました。スクリーングリッド電圧を高めにして、真空管マニュアルに記載されている動作例に合わせました。 

    

 

*  入力電圧

6V6 の動作点、また、負荷を 5KΩ に固定して入力信号(正弦波)の大きさを 12.5V から 1.5 VVpeak)まで変化させ、それぞれの入力電圧に対して、A点、B点、C点、D点のプレート電流を測定し、計算式AB を使い、2次、3次の歪み率を計算し求めました。次いで、それぞれの入力電圧に対するプレート電流のフーリエ解析により基本波、2次高調波、3次高調波を測定しました。

測定値は記しませんが、得られた歪み率を比較したところ、2次歪みは実測と計算結果がぴったりと一致し、3次歪みは入力電圧が高くなるに従い計算式の方が高めという結果となりました。

メモ:5極管は3次歪みが多いと聞きましたが、こうして見ると、肩にかからないような3KΩのロードラインの場合は、2次歪みのほうが多くなるのですね。

 

*  負荷抵抗

6V6 の動作点を固定して3KΩ、5KΩ、7KΩ、9KΩの負荷と負荷を変化させ、それぞれの負荷に対して、最大出力時(入力電圧の波高=25Vp-p)のA点、B点、C点、D点のプレート電流を測定し、計算式AB を使い、2次、3次の歪み率を計算し求めました。次いで、それぞれの負荷において最大出力時のプレート電流をフーリエ解析し基本波、2次高調波、3次高調波を測定しました。

比較したところ、・・・ どう評価すればよいのでしょうか? 感覚的には、この計算式A、Bは、「すごい」

 


 

0.707」はマジックナンバーです。計算できる理由を知りたい!!

 

 


参考書籍、参考ホームページ

¬  真空管マニュアルを多数公開しているwebサイト 『 tubebooks.org

¬  SYLVANIA社の真空管マニュアル 『1959 Sylvania tube manual Appendix

¬  RCA社の真空管マニュアル 『RCA RECIVING TUBE MANUAL TECHNICAL SERIES RC-25』 (30頁に式@が紹介されている)

¬  中林歩さんの web サイト 『 Ayumi’s Lab. 』の『電脳時代の真空管アンプ設計--第3 電力増幅回路』 (2.1.4 歪率 に式@の解析があります)

 

 


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