前項「7.2 高域での増幅率の計算式」により、高域での増幅率が計算できるようになりましたので、EL34を例として、高域での周波数特性図をいくつか描いて観察してみました。
観察するP-G帰還回路は、下記としました。また、この回路からRs1とRf1を削除した通常の五極管接続回路の特性も比較のため描いてみました。
動作条件は、帰還率βは一定(=0.1)とし、前段の出力インピーダンスは、12AX7相当を想定した30KΩと12AU7相当を想定した8KΩの2種類として、特性の差異を観察します。
また、βを同じ0.1としたまま、負帰還抵抗の大きさを半減して、特性の差異を観察します。
負帰還抵抗値は、Rfは900KΩ。Rsは、βを一定(=0.1)とするため、前段の出力インピーダンスが30KΩ時は70KΩ、8KΩ時は92KΩとした。
その他の定数は、規格表に記載されている値を使いました。
また、配線容量はゼロとしています。
尚、机上計算なので、実際の増幅率より2倍悪化しているように見えます。
@ 前段の出力インピーダンスが30KΩ
青線が通常の五極管接続回路の特性です。五極管は入力容量が小さいので、前段の出力インピーダンスが30KΩでも高域ポールは140KHと健闘しています。また、赤線がP-G帰還を施した回路の特性で、P-G帰還も負けてはいません。
緑点線は参考ですが、EL34を三結にした増幅回路の特性です。こちらは、メロメロ。
A 前段の出力インピーダンスが8KΩの高域特性
前段の出力インピーダンスを30KΩから8KΩと小さくしてみました。通常の五極管接続の回路は、高域ポールが一挙に500KHz以上に伸びました。P-G帰還を施した回路は、@の30KΩの場合から変化がありません。これは、βを一定とするためRs1を70KΩから92KΩとしたため、@とAでは前段の出力インピーダンス相当が同じ100KΩで変化しなかったことが要因と思われます。
B 負帰還抵抗Rs、Rfを半減
Aの状態で、負帰還抵抗Rs、Rfを半減してみます。β=0.1を保持するためRfは900 KΩから450 KΩ、Rsは92KΩから42KΩになります。前段の出力インピーダンス相当が100KΩから50KΩと小さくなったため、高域特性がAの138KHzから約2倍の274KHzに改善しました。ただし、入力インピーダンスは比例して小さくなっており前段には厳しい回路になっています。
留意事項ですが、これらは机上計算なので、実際の増幅率より2倍(-6dB)悪化しているように見えます。
検算の意味合いで、Tina7でシミュレーションしてみました。EL34の真空管モデルを使わず電圧制御電圧源VCVSを使いました。
@のP-G帰還回路をシュミレーションした回路が左図で、その結果が右図です。高域ポール(3dB落ちの周波数)は、138KHzとなり、@での計算結果の138KHzと合致する結果となりました。
以上の3例だけからですが、P-G帰還は、
Q 前段の出力インピーダンスが大きくても、高域の特性悪化は見られない。逆に、前段の出力インピーダンスを小さくしても、高域の特性は良化しない。
Q 負帰還抵抗を小さくすると、高域の特性は良化する。
Q 五極管の場合は、入力容量は小さいため、負帰還抵抗値を適切に選べば、高域の特性はさほど悪化しない。
ということが言えそうです。
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