前項の「仮想三極管 (P-G 帰還) 一覧」を見ると、各菅の増幅率 μf が 8〜10 くらいとなっており、各菅の差異がベース管と比べ著しく少なくなっていました。
このあたりは負帰還の効果だと思います。
負帰還の解説では、Ao * β ≫ 1 ならば、負帰還後の利得は、1/β となり、部品個体差、電圧変動、部品劣化に対するアンプの特性の安定性が改善される、と説明されています。
ここで Ao : オープンループゲイン β : 帰還率
@式をグラフ化してみます。 β=0.1 の負帰還で、オープンループゲイン Ao が 100 以上の場合、負帰還後のゲイン Af は、10=1/β に収束しています。
P-G帰還を施した仮想三極管の場合も、同様のメカニズムになっているはずで、もう少し詳しく検討してみます。
「仮想三極管の三定数」で求めた三定数の各式を変形、近似してみます。
増幅率 μf
多極管の場合、増幅率 μ は100 以上はありますので、帰還率 β が0.1 程度あれば、上記のグラフから、仮想三極管の増幅率 μf は、(1−β)/β =9 に収束していくものと推察されます。
ちょっと検算
Rs+Rf=1MΩ、rp=100KΩ、μ=100、β=0.1のとき、
相互コンダクタンスgmf
相互コンダクタンスは、ベース管の相互コンダクタンスの (1−β) 倍で近似されますが、増幅率に見られるような特性の安定化(収束)は現れません。
内部抵抗 rp
増幅率 μ と相互コンダクタンス gm の近似式から
ベース管の相互コンダクタンスが 10mA/V 程度、帰還率 β =0.1 で 内部抵抗が約1KΩ ほどの三極管に変身します。
仮想三極管 (P-G 帰還) 一覧で見た結果と一致しています。
ちょっと検算
rpf の式を直接変形し近似すると、
同じ結果となります。
「仮想三極管 (P-G 帰還) 一覧」から、増幅率 μf の収束状況をグラフ化してみました。
グラフ内の各点がひとつの真空管で、緑丸がベース管、赤丸が仮想三極管です。内部抵抗と相互コンダクタンスを二軸として、各真空管の値をプロットしています。右端の点だけ真空管名を記載しました。異様に高い gm の球です。
また、オレンジ色の線は、P-G 帰還後の増幅率の収束線として、内部抵抗*相互コンダクタンス=増幅率 μf = (1−β)/β ≒ 10 を表した曲線です。
こうしてグラフ化してみたところ、多極管は増幅率が高いので β が 0.1 程度の P-G 帰還で、様々な特性の真空管(黒点)が収束線上に収斂(赤点)していくのが良く判りました。
負帰還の効果ってすごいですねぇ。
負帰還は、そもそも、同じ種類の真空管で、製造個体差や使用時間の経年変化でばらつく品質(ばらついて欲しくない特性)を一定の品質(特性)にするため開発された技術であり、アンプビルダーは、低雑音化、周波数特性改善、ダンピングファクター改善の目的で使う技術。との教えが Web にありました。
ここで見た仮想三極管 (P-G 帰還) の作用は、真空管種別毎にあって当然な特性差が小さくなる、という意味なので、個性が無くなり均一化されて面白くない、という方もいらっしゃるかもしれませんが、黒丸だけだった世界に赤丸の球が増えた、と考えると、楽しみが増えたとも言えるのではないでしょうか。
Q 多極管は増幅率が高いので、
Ø 帰還率 β が 0.1 程度で、増幅率 μf は、ベース管の増幅率 μ に依存せず、(1−β)/β となる。ただし、負帰還抵抗を小さくするとそれにつれて μf は低下する。
Ø ベース管の相互コンダクタンスが 10mA/V 程度あれば、帰還率 β =0.1 で 1KΩ ほどの低い内部抵抗の仮想三極管に変身する。
Q 仮想三極管 (P-G 帰還) の三定数は、増幅率が大きい多極管では帰還率 β=0.1 くらいで次の近似式が成り立ちます。
Ø 内部抵抗 rpf ≒ 1 / ( β * gm )
Ø 増幅率 μf ≒ (1−β ) / β
Ø 相互コンダクタンス gmf ≒ (1−β) * gm
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