片側入力の差動回路−等価回路解析その1 |
Ver.01 2014/12/8
片側入力の差動回路(回路図A:ぺるけさんの真空管式・差動ライン・プリアンプの基本回路)の増幅率、V1とV2の負荷、出力インピーダンスを等価回路により求めました。V1とV2の動作は連携しつつ固有の所作となることから、それぞれの振る舞いが分かり易いようにV1とV2は異なる真空管として扱いました。
|
P-G帰還無し回路図Bは、基本回路(図A)からP-G帰還をはずした片側入力の差動回路です。グリッド側の負帰還抵抗Rsとグリッド間を切断して、代わりにRg2をグリッドとアース間に接続しています。また、“負帰還前“を意識してRfとRsを残しました。 解析はシンプルな振る舞いからということで、まずはこのP-G帰還をはずした回路で調べてみます。
|
|
回路を左右で分けてみた回路図Bの、電源をショート、コンデンサーをショート、定電流をオープンとし、左右で分けた形態で等価回路を描いてみました。RL1=RL、RL2=RL//(Rf+Rs)//Zin としています。(回路図B0) こうして描いてみると、V1は出力をカソードから取り出しており、V2はカソードに信号が入力されていることが良く分かりました。 |
|
また、Rg2には電流は流れていないので、V2のグリッド電圧(対カソード)eg2は、カソード電圧(対グランド)ek の反数となるはずで、以下の関係が成り立ちます。 eg1=ein−ek ・・・ @ eg2=−ek ・・・ A
|
|
さらに、回路図B0のV1側とV2側で独立させてみました。回路図B1(V1側)と回路図B2(V2側)です。V1側の出力インピーダンスをZo1、V2側の入力インピーダンスをZi2としています。 独立した回路ではありますが、V1側とV2側の回路は、V2の入力インピーダンスがV1の負荷になっている、同じ量のプレート電流ipが反対の向きに流れている、という相互関係がある回路かと思います。 |
|
また、以下の3ケの関係が成り立っていることから、 ・V1のプレート電圧(対カソード)=−(ip*RL1+ek) ・V2のプレート電圧(対カソード)=ip*RL2−ek ・ek=ip*Zi2 V1の負荷(ep1/ip)は、RL1よりZi2だけ大きい V2の負荷(ep2/ip)は、RL2よりZi2だけ小さい ことが分かります。
|
|
V1側の回路 回路図B1-1は、真空管を内部抵抗と電圧源に置き換えた回路図B1の出力ループの部分です。 増幅率A1=ek/einを求めると、図B2-1と@式から
V1側は増幅してませんね!
|
|
プレート電流ipを求めると、図B2-1と@式、及び、ek=ip*Zi2 から
|
グリッド電圧eg1を求めると、@式、及び、増幅率A1から
ipで表すと、
|
出力インピーダンスZo1は、Zi2の部分を電圧源に置き換えて入力をショートさせた回路(回路図B1-2)から
|
|
V2側の回路回路図B2-1は、真空管を内部抵抗と電圧源に置き換えた回路図B2の出力ループの部分です。 V2側の入力インピーダンスZi2=ek/ipを求めると、回路図B2-1とA式から
増幅率A2=eo2/ekは、
となります。
|
|
この増幅率A2の式を変形すると、
となります。この式と回路図から、片側入力の差動増幅回路の右半分の回路(図3)は、通常のグリッド入力の増幅回路と同様に入力信号がμ倍される(第2項)だけでなく、カソードに入力された信号がそのままrp2とRL2に分割されて出力される(第1項)ことが分かります。 また、入力インピーダンスと負荷の比が増幅率になるなんて、トランスみたいですね。
|
出力インピーダンスZo2は、メインアンプのZin2の部分を電圧源に置き換えて入力をショートさせた回路(図B2-2)から
|
|
P-G帰還無しの回路(図B)全体以上から、V1側とV2側を組み合わせたP-G帰還無しの回路全体(図B)での増幅率Ao2(eo2/ein)は、
また、出力インピーダンスは、V2側回路(図3)の出力インピーダンスそのものなので
|
|
P-G帰還無しの回路の解析と同様の求め方で、回路図Aの基本回路(P-G帰還有りの片入力側差動回路)を解析します。
基本回路(図A)の、電源をショート、コンデンサーをショート、定電流をオープンとし、また、RL1=RL、RL3=RL//Zin としました。(図A0) |
|
V1側は負帰還前と変わらず、V2側は出力電圧eo2のβ倍の負帰還電圧がグリッドに印加されていますので、 eg1=ein-ek ・・・ B eg2=β*eo2−ek ・・・ C ここで、β=Rs/(Rs+Rf)
注意:eg1、eg2、ip、ek、eo2は、P-G帰還無しの回路図と記号は同一ですがその値は異なります。
|
|
図A0の回路を、V1側、V2側で分離独立させました。図A1と図A2です。V1側の出力インピーダンスをZo1、V2側の入力インピーダンスをZi2としています。 V1側(図A1)は、P-G帰還無しの回路(図B1)と同じ回路であることが分かります。 |
|
また、P-G帰還無しのときと同じく、 V1の負荷は、RL1よりek/ip=Zi2だけ大きく V2の負荷は、RL2よりek/ip=Zi2だけ小さい ことが分かります。
|
|
V2側の回路回路図A2-1は、真空管を内部抵抗と電圧源に置き換えた回路図A2の出力ループの部分です。 |
|
V2側の入力インピーダンスZi2=ek/ipを求めると、図A3-1とC式から
増幅率A2=eo2/ekは、
(負帰還無しの回路B2-2と同じ形でした)
|
|
グリッド電圧eg2は、図A2-1から
回路全体の入力einで表すと、図A1=図B1の解析から
|
|
出力インピーダンスZo2は、メインアンプのZin2の部分を電圧源に置き換えて入力をショートさせた回路(図A2-2)から |
|
|
|
基本回路(図A)全体以上から、V1側とV2側を組み合わせた基本回路全体(図A)での増幅率Ao2(eo2/ein)は、
出力インピーダンスは、V2側回路(図A3)の出力インピーダンスそのものなので
|
|
本項で得られた基本回路(図A)の各式を以下にまとめます。(各式は、β=0のとき負帰還前の回路図Bの数式と同じでした。)
|
|
|
|
|
|
真空管を6DJ8と12AU7として、基本回路(図A)をシミュレーションして得られた数値と数式から求めた値と比較してみたところ、良く一致しました。回路定数は、ぺるけさんの記事(旧版)に準拠して、RL=20KL、Rs=46KΩ、Rf=100KΩ、B電圧=203V、また、メインアンプの入力インピーダンス=50KΩです。出力インピーダンスは、入力をショートしてメインアンプの変わりに電圧源をつないで測りました。また、シミュレーションの入力電圧は2Vp-pです。
|
図5 シミュレーション回路 |
負帰還の解説によると、増幅率Aoの回路に帰還率β の電圧帰還を施したとき、増幅率Afは、Af=Ao/(1+Ao*β)になる(#)、とありました。 P-G帰還は、負帰還抵抗を介して入力信号がダイレクトに出力に現れますが、B2の回路はこの作用がありません。また、入力が(1−β)倍に減衰する作用もありません。このため、当初、回路B2に帰還率βの負帰還を施した回路が回路A2であり、この式(#)が成り立つと考えていました。 しかし、 回路図A2の増幅率をA(A2)、また、回路図B2の増幅率をA(B2)とおくと、
でしたので、
となります。 従って、Af=Ao/(1+Ao*β)の形にはなりませんでした。
まぁ、負帰還の理解がまだまだってところですね。 |
|
|
回路全体では、基本回路図Aの増幅率をA(A)、また、基本回路からP-G帰還をはずした回路Bの増幅率をA(B)とおくと、
となり、 面白いことに、μ1=μ2のとき、#が成り立ちます。 |
カソードフォロワ回路、グリッド接地回路と、V1側の回路、V2側の回路とを比較してみました。
カソードフォロワ回路 |
V1側の回路 |
|
|
入力インピーダンス − |
入力インピーダンス − |
グリッド接地回路 |
V2側の回路 |
|
|
|
|
「KAKUSAN真空管アンプ」へ戻る 「片側入力の差動回路の解析」へ戻る