真空管の電極間には、目には見えない容量(コンデンサー)が存在し、その作用により周波数が高くなるにしたがいアンプのゲインが小さくなるそうです。
以下は、ぺるけさんの『私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編 低域の設計・高域の設計』や『私のアンプ設計マニュアル / 基準特性その1』で勉強させてもらったことのおさらいです。
図1は二段構成のアンプ。ピンク色の部分が真空管V2のプレートとグリッド間の容量Cgpとグリッドとカソード間の容量Cinです。この2ヶの目には見えないコンデンサーと前段V1の出力インピーダンスとでハ・イカット・フィルターが自然に構成されます。前段のV1の出力信号は、このハ・イカット・フィルターにより高域になるほど減衰してV2のグリッドを励賑することになります。このため、アンプの高域での周波数特性が悪化するわけです。
「ハイ・カット・フィルターが自然に構成される」と書きましたが、V1で増幅された信号の経路を辿るとその様子が見えてきます。V1の出力信号は、まず、V1のプレート負荷抵抗RL1に流れ込み、また、Rgを流れます。次いで、Cinに流れ、そしてCgpに流れていきます。
コンデンサーCin、Cgpのリアクタンスは高域になるほど小さくなります。このためCgp、Cinに流れ込む信号量は高域になるほど増え、相対的にRgに流れる信号量が減ることになります(V1が供給できる電流量は一定として)。このため、V2の入力電圧となるグリッド電圧Egが低下し、V2の出力が減少していきます。
Q ハイ・カット・フィルターを構成する目には見えない電極間容量を「入力容量」と言うそうです。
Q 真空管V2で増幅する前にすでに信号が減衰していることになります。
Q 図1では、V2での高域特性に着目して影響の大きいCgp、cinだけを描いており、その他の電極間は省略しています。
図1のV2の入力部を主体にした等価回路(電圧源モデル)が図2です。前段V1の出力電圧と出力インピーダンスをそれぞれEo1、Zo1としています。また、グリッド抵抗Rgは、Zo1に含まれるとしています。Cinの先はカソードバイパスコンデンサーCkが繋がれていますが、Ckは容量が大きくリアクタンスをゼロと見なし省略しています。Cgpの先は、出力信号電圧Eoと等しい電位の信号源を与えています。また、Agpは、グリッドからプレートまでの増幅率(−Eo /Eg)です。
図2(b)は図2(a)からEoを消去した回路で、Cgpに流れる電流とCxに流れる電流は等しい値です。
グリッドからプレートまでの増幅率をAgp(=−Eo /Eg)としたので、Cgpの両端電圧は、(Agp+1)*Eg となります。また、Cxの両端電圧はEgです。コンデンサーに流れる電流は容量に逆比例するので、CgpとCxに同じ電流量が流れているとすると、Cxの容量は、Cgpの容量のAgp+1倍となります。(#1)
図2(c)は、CinとCxを合成した図で、合成後のコンデンサーをCsとしています。教科書に出てくるハ・イカット・フィルターの構成回路そのものになっています。
図2(c)から明らかなように、Csがハイ・カット・フィルターを構成するV2の入力容量であり、次式で算出できることになります。
入力容量Cs=Cin+(Agp+1) * Cgp
・配線で生じる浮遊容量というものがあり、設計にあたっては大雑把には0.5pF程度をCin、Cgpにそれぞれ加算すると良いそうです。
・AgpはV2のグリッドからプレートまでの増幅率(Agp=−Eo/Eg)です。
図2(c)から、入力容量CsのリアクタンスRcsとZo1の比がV2への入力電圧の減衰率になります。中音域では、Csを構成するCin、CgpのリアクタンスがZo1に比べ非常に大きいので、V2への入力電圧Egは、Eg≒Eo1ですが、周波数が高くなり、例えば、Rcs=Zo1になったのとき、V2への入力電圧Egが半分になります。
・Cin、Cgpのリアクタンスがとても大きい中音域では、 Eg≒Eo1
・Cin、Cgpのリアクタンスが小さく無視できない高音域では、 Eg=Eo1*Rcs/(Zo1+Rcs) ・・・ 式@
また、容量C(pF)のコンデンサ−のリアクタンスR(KΩ)は、次の式Aで求めることができます。
R(kΩ) = 159000/ { f(KHz) × C(pF) } ・・・ 式A
この式@と式Aから、入力容量Csによる高域の減衰率が計算できます。例えば、100pFの入力容量の場合、10KHzでのリアクタンスは、159KΩです。ここでZo1が159KΩなら、アンプのゲインは10KHzで半減することになります。
注意
@式とA式で減衰率を計算した場合、−6dB(半減)となる周波数では実際には−3dBとなるそうです。理由を知るには、「位相の性質」を理解する必要があるそうです。勉強しようと思いましたが、Webでちょっと検索してみたところ、「伝達関数」とか、「複素数」、「δ応答」、「フーリエ変換」、「逆ラプラス変換」、・・・ うーん、道は遠い。
以上、前置きが長くなりましたが、、、
高域特性は、入力容量により、前段の出力インピーダンスZo1が大きいほど悪化します。
P-G帰還回路は、負帰還抵抗Rsが前段の出力インピーダンスZo1とシリアルに接続することから、前段の出力インピーダンス相当が負帰還抵抗Rs分増えますので、高域特性は悪化しそうです。
しかし、五極管の場合は入力容量が小さいですし(#2)、負帰還もかかることなので(#3)、このあたりは、実際のところどうなのでしょうか?
高域での増幅率の計算式を求めたり、具体的に高域特性図を描いて観察してみたり、その振る舞いを考察することにします。
#1 このCgpのように、入力端子から見るとあたかも“増幅率+1”倍された容量があるかのように振る舞うことを、発見者のお名前から「ミラー効果」と言うそうです。
#2 四極管の開発契機は、三極管では入力容量により難しかった高周波での信号増幅を克服するためだったそうです。真空管の規格表を眺めると、確かに、Cgpは、0.1pF等三極管のそれよりはずいぶんと小さい値になってます。
#3 単段の負帰還では、高域、低域とも周波数特性が負帰還量F倍に改善されるそうです。(帰還量F=ループゲイン/オープンループゲイン)
#4 アンプのゲインが通常の0.7倍(−3dB落ち)に減衰する周波数を、「カットオフ周波数」、「遮断周波数」というそうです。この周波数では、出力電力は通常の半分になります。
#5 「カットオフ周波数」では、コンデンサーのリアクタンスを用いた計算では0.5倍(-6dB落ち)となるそうです。(コンデンサーのリアクタンス=1/(2*π*周波数*容量))
¬ ぺるけさんのwebサイト 『私のアンプ設計マニュアル / 基礎・応用編 低域の設計・高域の設計』、『私のアンプ設計マニュアル / 基準特性その1』
¬ ウイッキベディアさんのwebサイト 『遮断周波数』
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