P-G 帰還は、五極管を直線性の良い三極管に変身させることができますが、また、その代償として、入力インピーダンスが低くなり高い励賑電圧を前段に要求することが判りました。
終段に P-G 帰還を施した図 1 の二段増幅回路を例題として、前段と P-G 帰還の関わりや前段に求められる性能をもう少し具体的に検討してみます。
P-G 帰還の β 回路 ( 出力信号を入力に帰還するための回路をこう呼ぶそうです ) は、
負帰還抵抗 Rf と Rs で構成されており、
入力に帰還される出力信号電圧は、図 2 に示すように
でした。
回路図 1 の β 回路を構成する負帰還抵抗 Rf と RS を考えてみます。
負帰還抵抗 Rf は Rf1 なのは明らかです。負帰還抵抗 Rs は、Rs1 でしょうか?
答えは、回路図 1 で Vb のプレートに表れた出力信号の流れを辿ると見えてきます。(プレートに表れた出力信号から解析する方法は、ぺるけさんのホーム頁で教えてもらいました。)
Vb のプレートに表れた出力信号は、まず、Rf1 を経由して Rs1 に流れます。そして Rs1 を流れたらそのままグランドには落ちず、Rg 、RL1 、また、V1 を経由してグランドに落ちています。従い、負帰還電圧は、Rs1 の両端の電圧と、Rs1 以降の抵抗 ( Rg 、RL1 、V1 の内部抵抗、の並列合成抵抗 ) により生じる電圧を加算した電圧になりますので、
となります。
Rs 部分に着目した等価回路を描いてみました。回路図 3 が、回路図 1 の等価回路です。また、回路図 3 の Rs1 より左側の素子数を減らした等価回路が図 4 です。丸で囲んだ部分が、負帰還抵抗 Rs になります。
V1 の内部抵抗を rp1 、出力電圧を E1 としています。 Rs 、Zo1 、Ein は以下となります。
また、図4から、P-G 帰還の前段やグリッド抵抗Rg は、負帰還抵抗Rs を構成するだけで、P-G 帰還作用そのものには影響を与えないことが判ります。
あまり良い問題ではありませんが、ここで問題。
下記は、EL34 のP-G 帰還のロードラインです。バイアスを−10V から−90V まで変化させ最大出力を得るとすると、所要の励賑電圧の振幅は 80Vp-p ですが、この 80Vp-p を示しているのは等価回路図 5 のどの部分の電圧でしょうか?
@ 前段の出力信号電圧 E1
A グリッド抵抗 Rg の両端電圧 Erg
B グリッド電圧 Eg
答えは、どれでもありません。私は、@のE1 かと思いました。。。。
仮想三極管 (P-G 帰還) の励賑電圧 80Vp-p を、図5 で考えてはいけませんでした。 80Vp-p は、等価回路図 4 の Ein 電圧です。
従い、前段は、グリッド抵抗 Rg と直流負荷の RL をの合成抵抗を負荷としたときに、所要の仮想三極管 (P-G 帰還) の励賑電圧 Ea 以上が得られれば良いことになります。( 条件1 )
次に、P-G 帰還を施した場合、入力インピーダンスが低くなります。この入力インピーダンスを Zip とした等価回路が図 7 です。前段は、Zip を負荷として加えたときでもカットオフさせず、フルスイングできることが必要です。(条件2)
この入力インピーダンス Zip は、Rg より右側を仮想三極管 (P-G 帰還) としたときの入力インピーダンスで、図 1 の回路では、Zip=Rs1+Rf1/(A+1)+Zo/(A+1) です。
このあたりは、ロードラインを描いてようやく納得できる感じです。
図 8 の前段のロードライン 1 ( 黒線 ) は、バイアスを−5V として、Ec1=±5V の入力で、負荷 Zo1//Rg に対して 80Vp-p の出力を得ており、条件 1 は満足していますが、終段を接続した場合の負荷 (=Zo1//Rg//Zip ) に対しては Ec=−7.5V 以下は電流が 0mA 以下となってしまい、カットオフしてしまい、終段を振り切れません。
図 9 の前段のロードライン2のように動作点 O を移動して、Ec1=±5V の入力に対して負荷 Zo1//Rg//Zip でも詰まることなく動作させることが必要になります。
© 前段やグリッド抵抗は、負帰還抵抗Rs の値を大きくするだけで、P-G 帰還作用そのものには影響を与えない。
© P-G 帰還の設計においては、
ü 帰還率 β を決定する負帰還抵抗値 Rs は、Rs1 だけではなく、Rs1 より左側の回路(前段やグリッド抵抗)のインピーダンスを加算した値となる。
ü 前段は、グリッド抵抗 Rg と直流負荷 RL1 の合成抵を負荷としたとき、所要の励賑電圧が得られることが必要。次に、終段 ( P-G帰還段 ) の低い入力インピーダンス Zip を負荷としてカットオフしないことが必要。
© 設計順番として、まず、仮想三極管 ( P-G 帰還 ) Vf のロードラインをひいて帰還率 βx を決め、必要な励賑電圧を求める。次いで、必要な前段回路を設計するとして、
回路図 1 においては
帰還率が βx = Rs/( Rs+Rf ) となるよう、Rs1、Rf1 を決定する
ü Rf は Rf1
ü Rs は、Rs1 だけではなく、Rs1 より左側の回路 ( 前段やグリッド抵抗 ) のインピーダンスを加算した値となる。 Rs = Rs1+rp // RL1 // Rg
次に、前段は、グリッド抵抗 Rg と直流負荷 RL1 の合成抵抗を負荷としたときに、励賑電圧が得られるよう設計する。
ü 所要の励賑電圧 = ( RL1 // Rg ) / ( rp1 + RL1 // Rg ) * Eo1
また、グリッド抵抗 Rg 以降の入力インピーダンス Zipは、以下となり、この入力インピーダンスを交流負荷としてカットオフしないよう設計する。
ü 入力インピーダンス Zip = Rs1+Rf / ( A+1 ) +Zo / ( A+1 )
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