負帰還率β やスクリーングリッド電圧を調整すると、同じ真空管でも Ep-Ip 曲線の間隔が広がったり、寝たり立ったりして結構面白い。このように Ep-Ip 曲線を変化させて遊んでいるうち、もしかしたら 300B や 2A3 と言った高価で著名な三極管と同じ特性を持った仮想三極管が作れるんじゃないかと思い、試してみました。しかし、どうも、手当たりしだいでは、そうは簡単にはいきません。仮想 300B は作れませんでした。
本項では、仮想三極管 (P-G 帰還) の三定数の近似式を用いて、300Bの特性図と一致する仮想三極管の作成を再度試みてみます。手当たりしだいではなく、もう少し論理的なアプローチ(!?)で仮想300B作りです。
P-G帰還を施した仮想三極管 (P-G 帰還) の三定数( rpf、μf、gmf )は、ベースとする三極管の三定数を rp、µ、gm 、負帰還率を β とすると、次の近似式で求めることができました。
Ø 内部抵抗 rpf ≒ 1 / ( β * gm )
Ø 増幅率 μf ≒ (1−β ) / β
Ø 相互コンダクタンス gmf ≒ (1−β) * gm
条件は、( Rs+Rf ) ≫ rp/(1+μ*β) 、さらに、μ * β ≫ 1
300B の増幅率は 3.9、内部抵抗は 0.74KΩ ( Ep=300V、Ip=62mAのとき ) ですから、、仮想三極管 (P-G 帰還) の μf が3.9、rpf が0.74KΩ となる、負帰還率とベース三極管の相互コンダクタンスは、この近似式から、
負帰還率 β ≒ 1/( μf + 1 ) = 1/( 3.9+1 ) ≒ 0.2
相互コンダクタンス gm ≒ 1/( rpf * β ) = 1/( 740Ω * 0.2 ) = 6.6 ≒ 6 〜 7 mA/V
程度となりますので、
相互コンダクタンスが、6 〜7 mA/V の真空管をベース管として、帰還率= 0.2 程度の P-G 帰還を施すと、300B に類似した仮想三極管が得られることになります。
下表は、これと同じ計算手法で、仮想三極管 300B の他、2A3 や 45 等の仮想三極管を作るための、ベース管の相互コンダクタンス、負帰還率 β を求め、まとめた表です。 45 のベース管の相互コンダクタンスは存外小さくても良いんですね。
仮想三極管の三定数の一覧表から、相互コンダクタンスが 6.6mA/V 前後の真空管を下表に選びました。負帰還率 β は、0.2 です。
このなかから、プレート損出が小さい菅はパスしました。さらに、最大プレート電圧が低い球も似つかわしくないのでパスします。残った候補は 6CD6、6DQ6A、6L6 です。
BRIMARのAPLICATION REPORTからの抜粋です。(ちょっとした手抜き) TV に使われていた球のようで、プレート損出は 15W で、300B の 35W の半分以下。負荷 1.5KΩ で 4.7W の出力 (歪み 13% )、このときのプレート損出は 16W=200V*80mA。規格をオーバー?いいのかなぁ。。。
ベース管を 6CD6 とした仮想三極管 (P-G 帰還) の Ep-Ip 特性図を Tina で描いて見ました。Sg 電圧は A1 シングル動作例の 110V、左端の Ep-Ip 曲線のグリッド電圧は 300B に合わせるため−40V です。
右図は、目標とする 300B の Ep-Ip 特性図です。
比べてみると間隔はいい感じですが、ちょっと立ってる?
さっそくに、両特性図を重ねて見ました。一目瞭然、失敗です。
。
気を取り直して、Sg 電圧を振ってみました。下図はSg 電圧 =180V とした Ep-Ip 特性図です。左端の Ep-Ip 曲線のグリッド電圧は −60V です。
両特性図を重ねて見ました。
いいんじゃないですか。
「 6CD6−β=0.2& Sg=180V 」 君を、仮想 300B 第 1 号と命名!
シングル A1 動作をシュミレーションして、両管の特性を比較してみます。
シュミレーションは、Westen Electric のデータシートに記載されているシングル A1 のオペレーション例のうち、プレート負荷の小さな例とします。動作ポイント 300V&62mA、バイアス−61V、負荷3KΩ で 6W 出力のオペレーションです。
注) 6CD6 の最大プレート損出をオーバーしてますが、まぁ、比較シュミレーション検討なので、御容赦。
300B のシュミレーション回路と結果です。入力信号 126Vp-p で、データシートどうりの出力 6.0W、歪み4.9% となりました。ダンピングファクターは、ON/OFF 法で 4.01 となりました。
6CD6 のシュミレーション回路と結果です。プレート電圧他のパラメータは 300B と同一です。出力 5.9W、歪み 4.9% となりました。ダンピングファクターは、ON/OFF 法で 4.2となりました。
300B のシュミレーション結果とほぼ同一です。
出力対歪率特性を Tina で測定、比較してみました。測定周波数は 1KHzです。
オリジナル 300B はリニアでした。仮想 300B(6CD6) は、オリジナルより若干良好でくねってました。出力が 100 倍アップするごとに歪が 10 倍増えるという特性は、典型的な 2 次歪み特性だそうです。仮想 300B(6CD6) がくねった理由は、3次歪み成分が多いためと思われます。( でも変ですよね。三極管なんだから)
右図は入力信号=28VP-P 時の出力信号 Vo の波形を解析した結果で、向かって、左がオリジナル 300B 、右が仮想 300B (6CD6)。
次の候補である 6DQ6 で試みてみます。
以下、結果のみの記載です。
左図が β=0.2 、ベース管を 6DQ6、Sg=200V とした仮想三極管の Ep-Ip 特性図です。右図が 300B の Ep-Ip 曲線を重ねた特性図です。
「 6DQ6−β=0.2& Sg=200V 」 君を、仮想 300B 第 2 号と認定!
6L6
6L6GC は、プレート損出が 30W もあり本命でしたが、うまくいきませんでした。残念。
今回は、6CD6、6DQ6 を仮想 300B の第 1 号、第 2 号と認定できました。
ただし、プレート損出に留意しなければなりません。300B は35W、6CD6、6DQ6 は半分以下の15W ですので、ミニ仮想300B です。それから、歪み率のうねりが少々気になります。
今回の手順によって、所要のEp-Ip 特性に近い仮想三極管 (P-G 帰還) を作り上げることができようになりました。(限界はあるのでちょっと大げさ。。。)
それから、Ep-Ip 特性が類似していてもアンプの音が違うことくらいはビギナーの私でも知っております。“ カニもどき ” は本物とは違うもんね。まぁ、遊びだと思って下さい。
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