仮想三極管 (P-G 帰還) のプレート特性を机上で測定でした際に肝となった、 仮想三極管のグリッド電圧 Ein とベース管のグリッド電圧 Eg、プレート電圧Ep の関係を表した式 A は、グリッド電流が流れない条件下で成り立ちました。グリッド電流が流れる領域ではどうなるのでしょうか?
真空管の特性として、グリッド電圧が正の場合は、カソードからグリッドに電子が流れ込みグリッド電流が流れるそうです。どのくらいの量が流れるのか、真空管のマニュアルをばらばらと見てみました。なかなかグリッド電流の情報が記載されたマニュアルは見つかりませんでしたが、次の2つの情報を見つけました。
左図はC3m です。同一電圧では、通常コントロールグリッドに使われる第一グリッドの電流Ig1 は、プレートに流れる電流Ia より多いです! プレート電圧が低いからでしょうか、不思議な感じです。。。。図の読み方が違ってますでしょうかね。
右図は、807 の三結時のデータです。グリッド電圧+15V、プレート電圧200V で、グリッド電流は26mA も流れます。仮に負帰還抵抗Rf、Rs が1M Ωと100K Ωのときには、26mA の電流がRf、Rsを流れるとすると、Rf、Rs のそれぞれの両端間の電圧は26000V、2600V にもなってしまいます。また、グリッド−カソード間抵抗はわずか0.6K Ω(=15V/26mA) で、負帰還抵抗に比べ大きさは非常に小さい値です。
このことから、仮想三極管のグリッドに固定的に負電圧を与えて(Ein<0V)、プレート電圧を0V から上昇させていくと、
Q プレート電圧Ep の増加に比例して負帰還抵抗Rf を流れる負帰還電流If が増加していく。
Q グリッド電圧がマイナスのあいだは、グリッド電流は流れないので、この増加したIf が負帰還抵抗Rs にそのまま流れ込みます。
Q さらにプレート電圧を上昇させると、グリッド電圧 ( =Rs の両端電圧+入力電圧Ein ) は上昇していき、やがてマイナスからゼロになる。
Q さらにプレート電圧を上昇させるとグリッド電圧はプラスに転じることになるが、グリッド電圧がプラスの領域では、グリッド電流が流れる。真空管内部のグリッド−カソード間抵抗はRs より小さいので増加した負帰還電流If は大半が真空管のグリッド側に流れてしまい、Rs に流れる込む電流は増えない。このため、グリッド電圧は上昇していかないことになります。( グリッドに流れる量はグリッド−カソード間抵抗とRs の大きさの比で決まると思われます。)
つまり、グリッド電圧が正の領域では、出力信号 ( プレート電圧 ) はグリッドに帰還されにくく、負帰還の作用が鈍くなる、ということになります。素人が手を出す領域ではなさそうです。
注意:ここではグリッド電圧の正負で単純に割り切りましたが、『 情熱の真空管 』 によれば、グリッド電圧が−0.7V 以上ですでにグリッド電流が流れ始めているそうです。また、グリッド電流の流れやすい真空管もあるそうです。従い、P-G 帰還を設計する場合、グリッド電流に配慮しないと設計どうりの効果が得られないことになります。それに、プレート特性図を描いてみると判りますが、Eg が0V の近傍は曲線間隔が詰まりロードライン設計が難しい領域です。
グリッド電流が流れる領域での特性は式A を使った計算では求められないのでシミュレータを使い検証してみます。
ベース管はEL34 (Esg=250V)、Rf=1MΩ、Rs=150K Ωです。青線は、
ベース管EL34の5 結時のEp−Ip 曲線です。
赤線が、仮想三極管のグリッド電圧 Ein が−25V のときのEp−Ip 曲線です。
仮想三極管 (P-G 帰還) のグリッド電圧 Ein を−25V に固定しプレート電圧を
0 Vから上昇させると、ベース管EL34 のグリッド電圧Eg は比例して上昇し
プレート電圧168V でグリッド電圧Egは0V となる。この間のEp、Ein、Eg
の関係は式 A に従います。
さらにプレート電圧を上昇させるとグリッド電流が流れ、グリッド電圧Eg は
ほとんど0V のまま上昇していかない。
従い、仮想三極管のEp-Ip 曲線 (赤色) は、Eg=0 となった以降は
プレート電圧が上昇しても Eg=0 のEp-Ip 曲線 (青色) に沿った曲線となっています。
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