Advantest R6441B |
中古で購入したデジタル・マルチ・メータのAdvantest R6441Bの測定確度の仕様は、「フルスケールの5%以上の入力」が条件であり、最も低い測定レンジは200mVなので、10mV=200mV*5% より低い電圧の測定確度についての記載はありません。
Advantest R6441B の分解能は 10μV、表示される最小値は「0.01mV」です。測定電圧を小さくしていくと、この表示値もどんどん小さくなっていきます。電圧を小さくしていくなかで、逆に表示値が大きくなることはありませんでした。そして、やがて「0.01mV」となります。そこで、10mV以下の低い交流電圧において、R6441B の表示値の確度について実験してみました。「0.01mV」と表示されたとき、実際の交流電圧は何mVくらいなのでしょうか?
尚、この実験は、製作したMini Watterアンプのクロストーク特性をなんとか測定したくて行った実験です。出力1000mVの-90dBのクロストーク電圧を測定したい!!
10mV以下の交流電圧を、このDMMが何mVと表示するのかという実験ですが、「正確な交流電圧発生器」を保有してません。そこで、以下のような手法で実験しました。
まず、このDMMは、中古品ではありますが、10mV以上の交流電圧は正確に測定できる(測定確度は仕様を維持している)と仮定します。とすると、低周波発振器は所有しているので、正確な10mV以上の交流電圧を発生させることはできる、ということになります。
そこで、この“正確”な10mV以上の交流電電圧を抵抗R1、R2で分圧します。R1を大きな抵抗、R2を小さな抵抗として、その差を非常に大きくすれば、「0.01mV」等の低い電圧がR2の両端に表れると考えました。
ü V1の計測値とR1、R2の値から計算したV2の計算値を、「真値」と見なします。( V2=V1*R2/(R1+R2) )
ü このV2の計算値(真値)とV2のDMMの表示値との差異=(計算値−表示値)/表示値 (%)を、「誤差」とします。
ü 周波数は、1KHzとします。
ü R1、R2の値は、テスターで測ることにします。テスターの測定誤差が気になるので、R2はそれなりに大きな抵抗値とします。
ü DMMの内部抵抗は1.1MΩ、低周波発振器の内部抵抗は600Ωです。
ü DMMは温度特性もあるそうですが、気にしませんでした。普段どうりの使い方(入力ケーブルはシールド無し、ICクリップ、みの虫クリップ)のままでこの実験も行いました。
まず、100KΩと27Ω、100KΩと100Ωの抵抗の組み合わせで、何点かデータを採ってみました。計算値と表示値の差異(誤差)は、1mV以下では急激に大きくなりました。また、1mV以下での差異(誤差)は大きいものの、表示値と計算値との間には、一定の相関関係がありそうでした。これなら、表示値を補正すれば、それなりの誤差で真値に近い値を得ることができそうです。
実験1の結果が良かったので、下表の抵抗の組み合わせで、データを採ってみました。
測定したデータをグラフ化したところ、かなりの精度でデータが仲良く集合していましたが、仲間から外れているデータがいることが分かりました。青丸のAです。電圧が下がるに従って差異(誤差)が大きくならず、かえって小さくなっていきます。計算値=表示値=004mVとなったデータもいます。そして、全てのAのデータが仲間から外れているわけではなく、0.3mVより大きい電圧では他のデータと同じ特性です。従って、単純に抵抗の組み合わせ問題ではなさそうです。また、良く見ると、外れかけているデータがA以外にもいます。この精度を悪くしているデータ群の特徴、違いは、何なんでしょうか? 悩みました。
しばらく抵抗値やデータを眺めているいるうちに、R1・R2に流れる交流電流が少ないと、仲間から外れていく傾向にあることに気が付きました。そこで、採取したデータを流れる電流量に応じて3つのグループに色分けしてみたところ、想定のとうり、精度を悪くしているデータ群の特徴は交流電流でした。
|
流れる電流量 |
データ個数 |
T群 |
0.2μA未満 |
8個 |
U群 |
0.2μA以上かつ0.3μA未満 |
9個 |
V群 |
0.3μA以上 |
159個 |
このことから、流れる交流電流により、表示値と真値は別な特性関係となる、と仮定できそうです。何故なのかは分かりません。
測定データをもうすこし詳細(電圧領域を3分割)にグラフにしました。横軸を全て表示値にしています。
たかだか200ヶ弱のデータ測定でしたが、
Q 10mVから2mVくらいまでは、実際の交流電圧よりも若干高めに表示されましたが、誤差は数%程度でした。
Q 1mVから以下になると急激に誤差が大きくなりました。そして、実際の交流電圧よりも低めの表示となりました。
Q 「0.01mV」と表示されたとき、実際の交流電圧は存外に高い電圧で、0.055mV〜0.085mV程度でした。
Q 電圧が低くなるほど誤差が大きくなりました。ただし、抵抗に流れる電流が0.3μAより少ないとこの特性が薄れるようです。
Q 3μA以上の場合、表示値と計算値との間には、差異(誤差)は大きいものの、ある精度で一定の相関関係がありそうでした。
流れる電流が3μA以上の場合、ある精度で表示値と計算値(真値)の間には相関関係があるようでした。
今回の実験の目的は、できればクロストークの測定にこのDMMを活用したい、です。出力1000mVで−90dBのクロストークの場合、漏れ信号量は 0.032mVです。負荷8Ωに流れる漏れ信号は、4μA=0.032mV/8Ωとなります。従って、3μA未満のケースは別途考えることにして、今回は、3μA以上のデータについて表示値と真値の関係を調べることにします。
エクセルのグラフ機能には2ヶの変数データ群から近似関数を得る機能があるので、この機能を利用して、表示値から計算値(真値)を得る近似関数を求めます。うまく、求めることができれば、DMMの表示値から実際の交流電圧値をそれなりの正確さで計算できます。
まず、電圧値の高い部分ですが、2mVまでは、表示値の計算値(真値)との差異(誤差)は数%で、メーカの確度仕様に納まっていました。このことから、5mVより高い電圧は補正せず、表示値≒真値とする、とします。
次に電圧の低い部分ですが、ひとつの関数では近似ができませんでした。そこで、2分割して、それぞれで近似関数を求めました。分割点や近似関数の種類をいくつか試みて、下記の関数としました。
表示値 |
近似関数F |
〜0.5mV |
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0.5mV〜5mV |
|
5mv〜 |
表示値のまま |
近似関数Fの@、Aに表示値を代入してもとめた値を「補正値」と呼びます。
計算値(真値)≒ 補正値=近似関数F(表示値)
全ての表示値データを近似関数Fの@とAに代入して補正値を求めました。この補正値と計算値(真値)との百分率差分を誤差としてグラフ化しました。
補正値の誤差 =(計算値−補正値)/補正値 (%)
それなりの“補正”になったかと思います。(5mVより高い電圧まで補正すようにしても良かった。)
0.01mVから0.10mVの表示値のそれぞれの補正値を下表に記しておきます。「0.01mV」と表示されたとき、実際の交流電圧は存外に高い電圧で、0.07mV程度でした。出力1000mVで−90dBのクロストークの場合、漏れ信号量は 0.032mVですので、このDMMでは測定は難しそうです。しかし、出力を1500mVとして−80dBならば、参考程度の測定にはなるように思えました。
初めて手にしたデジタル・マルチ・メータに過大?な期待をしてしまった素人が、プアな環境での理屈の無い結果です。実験対象となったAdvantest R6441B型番「41542886」君は、入力をショートしたときの表示電圧が0.08mVの日もあれば、0.06mVの日もあります。それでも、まぁ、低電圧でも結構素直な性格で頑張っていると思いました。
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