出力管の動きと単管のロードラインの図形的な特徴

2018/10/19

 

通常のプッシュプル回路( DEPP 回路)の単管のロードラインは、どうして湾曲するのでしょうか?

次の回路図Aにおいて信号が入力されたときの出力管の振る舞いから、単管のロードラインの図形的な特徴を調べてみます。

 

 

 

 	Epo、Ipo、Eco:無信号のときのプレート電圧と電流、バイアス(直流)
 	ep1、ep2:信号が入力されたときの V1とV2 のプレート電圧の瞬時値
 	ec1:同じく、V1のグリッド電圧の瞬時値
 	ip1、ip2:同じく、プレート電流の瞬時値
 	また、お約束毎として、
 	V1とV2 の入力信号(正弦波)は、それぞれ逆相で等振幅
 	V1とV2 は、同じ特性の真空管
 

 



♪ 出力管のプレート電圧とプレート電流の関係

回路図Bは、回路図Aの出力部の等価回路です。 

i11i12e1 は、出力トランスから見た信号電流と電圧( 交流分 )で、プッシュプル用のトランスでは P1-B間と B-P2間の信号電圧は等しかったことから、それぞれの電圧を同じ e1と置いています。

 

⇒ ip1i11の向き(交流なので向きという言葉は妙ですが、位相と言えばよいのでしょうか)を逆にしています。信号が入力されてV1のプレート電流が30mA増加、V2のプレート電流が20mA減少したとすると、i11=30mAi12=−20mAです。

  

 

さて、ここから本番。

1次側の P1-B間と B-P2間の信号電圧が等しいということは、V1 のプレート電圧と V2 のプレート電圧の瞬時値は、動作基点のプレート電圧 Epoを中心として正負逆の値となります。仮に動作基点のプレート電圧が300Vep1400V なら、ep2 200V です。

 

次に、プッシュプル用のトランスでは、1次側の 2つのコイルに流れる電流を加算した値( i11+i12 ) がキーパラメータで、この加算電流( i11+i12 )と 1次側のコイルの信号電圧 e1 は比例関係にあり、その割合は、出力トランスの 1次側公称インピーダンスZ1 1/4倍でした。

信号が入力されてV1のプレート電流が30mA増加、V2のプレート電流が20mA減少したとします。このときの加算電流( i11+i12 )は、-50mA=-30mA-20mA ですから、出力トランスの 1次側公称インピーダンスZ1 8KΩ ならば、V1のプレート電圧は、D式から100V 減少することになります。( -50mA*1/4*8KΩ=-100V

このD式を出力管のプレート電流と電圧の瞬時値で表現すれば、次式となります。

 

以上で、DEPP回路での信号が入力されたときの出力管のプレート電流と電圧の関係、振る舞いがはっきりしました。

 


♪ 単管のロードラインの図形的な特徴

♬ A級動作

無信号のときの Ep-Ip 特性図上の出力管 V1 の位置を動作基点Oとします。

O点のバイアスが -30Vだったとします。出力管 V1 に信号が入力されバイアスが 10 V 増加したとすると、V1 は、O点から Ec-20 の特性曲線上に移動します。また、V2は、バイアスが 10 V 減少して O点から Ec=-40V の特性曲線上に移動します。

この動きを、V1V2 の移動先の位置を Q点、P点として、右図に図示しました。

 この右図において、Q点と O点から Ep 線軸に下した垂線と、P点から Ip 軸に下した垂線との交点を、それぞれ Y点、X点とすると、

出力管のプレート電流と電圧の関係 ❶、❷から、図形的に以下の 2点が成り立っていることが分かります

*  X点は、線分YPの中点         

*  線分 QX の傾きは、-4/Z1Z1=出力トランスの1次側公称インピーダンス )

 

ここで、V1 のバイアスが逆に 10V 減少したときは、V1 O点からP点に移動するはずですから、右図は、V1 単独での動きでもあり、かつ、Q点、P点は、V1 の単管のロードライン上に位置していることになります。 

従い、上記の 2点が DEPP回路の単管のロードラインの図形的な特徴と言えます。

 

Ep-Ip 特性図では、右下にいくほどプレート電流の変化は小さくなりますので、この特徴から、単管のロードラインは上向きの曲線になることが分かります。

これが、シングルと異なりプッシュプルでは単管のロードラインが湾曲する要因なんですね。

 

 

♬ B級動作

B級動作では、無信号のときにはプレート電流は流れていません。( 当たりまえというか定義ですよね。)

信号が入力され、V1 のプレート電流が流れているときは、V2 のプレート電流は 0mA のままですから、❷により、V1 のプレート電圧とプレート電流の関係は、次のようになります。

また、V2 は、プレート電流は 0mA のままですが  ❶からプレート電圧だけは以下のように上昇し、線分YP の中点が O点となります。

 

従い、B級動作のときは、負荷が公称インピーダンスの 4分の1 のシングル動作となり、単管のロードラインは、右図となります。

 

F  B級動作でも、単管のロードラインの図形的な特徴はA級動作と同じでした。( B級動作では、XO点 )

*  X点は、線分YPの中点         

*  線分XQ の傾きは、-4/Z1Z1=出力トランスの1次側公称インピーダンス)

F  B級動作では、単管のロードラインは、湾曲せずにシングルと同じ直線でした。

F  B級動作では、単管のロードライン(の青線)は、合成ロードラインに相当します。

 

 

♬ AB級動作

AB級は、A級動作と B級動作の組み合わせですが、これまで見てきた事柄から右図がその単管のロードラインになるかと思います。( 2つの要素があるのでビジーです)

A級動作から B級動作となる点を Q1、P1としています。尚、線分 OP1OQ1 は便宜上直線にしていますが、実際には、湾曲しているはずです。

注目したいのは、線分 Q-Q1-X は、一直線で、合成ロードラインであることです。

 

F  AB級動作でも、単管のロードラインの図形的な特徴は A級動作と同じです。

*  X点は、線分 YP の中点        

*  線分 XQ の傾きは、-4/Z1Z1=出力トランスの 1次側公称インピーダンス )

 

 


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