12AU7 差動ライン・プリアンプ

Ver.01 2014/12/13

ぺるけさんの差動ライン・プリアンプを、写真のかっこ良さに魅かれて製作しました。ぺるけさんから部品(定電流用FET)の頒布を受けながら、約1年ほどゆるゆると製作、2009年の夏に完成させて、現在も愛用しています。使用した真空管は、入力信号を増幅させる必要性を感じなかったこともあり、手元にあった12AU7を使いました。また、シャーシは、お手本同様にBuilding My Very First Tube Amp講座用の標準シャーシを活用しています。私には、アンプと言えば、まずは大きなメータがあって、その他に沢山のスイッチやつまみ類がフロントに整然と配置されている、という刷り込み?がありまして、VUメータやつまみ類などを取りつけてみました。また、製作した当時は、テスターで電圧をあたっただけでしたが、製作後5年を経て、今回、各種データを測定しました。

 

キャプチャ2.JPG

左側が6AH4GT全段差動プッシュプル・アンプ、右側がお揃いの12AU7差動ライン・プリアンプ

 

 

 


プリアンプの機能

必要に迫られてというより、いろいろ賑やかにしたいということで、、、

 

VUメータ

VUメータはどうしても付けたかった。

VUメータの回路を設計できるほどの知識が無いため、VUメータの基盤をオークションで落札し、そのまま実装しました。このVUメータ基盤の所要電圧(12V)は、ACアダプターで賄う方法を採用しています。取り付け穴の加工ですが、全段差動アンプの標準シャーシは、1.6mm厚の鋼板でできています。1.6mm厚の鋼板に大穴を開ける加工はしんどかったです。工具を壊したあげく、穴の中心の高さが左右で異なる、一部は四角形になる、etc。

使ってみた感想ですが、音の変化にとても敏感に反応して針が振れます、もっとゆったり振れて欲しい。また、音量に対してもクリティカルで、感度調整用のボリュームを飾りのつもりでフロントに取りつけましたが、CD毎にこのつまみの操作が必要です。ということで、使い勝手は、今一歩。

それでも、VUメータをつけて良かった。

 

★ステレオ→モノラル変換

スピーカーの聴き比べが好きなことから、ステレオ音源をミックスしてモノラル音源に変換する機能を付けました。ミックス回路は、Webで調べたところ、左右のチャンネルの入力間(初段のグリッド間)を結ぶとミックスされてモノラルになるとの情報があり、TINA7でシミュレートしたところ左右の信号がミックスされることが確認できたので、採用しました。また、ボリュームをMAXとしたときはミックスされないので、5KΩの抵抗をボリュームとシリーズに追加しています。抵抗値(5KΩ)の値は適当に決めました。

何故ミックスされるのか、仕組みの理解はいまひとつです。

シミュレート回路と結果

 

実装方法は、2ヶのピン入力をフロントに設けてLチャンネルとRチャンネルのボリュームの出力とを結線しました。モノラルにしたいときに、専用のピンを挿入して両チャンネル間を短絡するという単純なやり方です。穴を空けた際にR-CHのピンの穴の位置が右側にずれてしまい、ちょっと間抜けな顔立ちになってしまいました。ちゃんとポンチを使ったのですが、そのポンチの痕まで残ってしまった。。。     

 

   

通常(ステレオ)                   モノラル

 

★入力セレクター

4回路の入力セレクターを付加しました。4回路のうち1回路の入力をミニジャックとしてフロントに設置しました。このフロントのミニジャック入力は便利で活躍しています。ヒットでした。また、4回路のロータリースイッチが入手できず6回路のロータリースイッチの入手となったため、余分な2回路はアースと接続させて入力ショートとしています。

 

★出力

出力は2回路としました。出力インピーダンスが低いので50KΩの入力インピーダンスのアンプを2ヶ並列接続しても駆動できるだろうと単純に考え、切り替えスイッチは設けませんでした。実際のところ、制作して5年になりますが、2ケ目の出力端子の出番はまだありません。どうせならフロントにミニジャックで出したほうが活用できたかと思われます。

 

★バス・ブースト

お手本の回路定数をそのままにデッドコピーしました。私のスピーカーは、低域はほとんど出ないので心持程度の効き目ですが、なによりも、スイッチがひとつ増えたことが嬉しい。

 

★後姿

 

 

 

← 入力RCAピンジャックの取付けもデッドコピー・・・

 

 

 


今更ですが

本機で使う真空管は、ぺるけさんの記事(旧版)で紹介されている真空管の中から、手持ちの12AU7を選びました。回路定数は、ぺるけさんの記事(旧版)のまま、直流負荷RL=20KΩ、負帰還抵抗を100KΩと56KΩ、Ip4.1mAB電圧=192Vとしました。(この定数は6DJ8での設計値かと思いますが、何も考えず、デッドコピーしました。)12AU7での動作点と三定数は、下表となります。(12AU7の増幅率と内部抵抗は TINA7-BOOK3の真空管モデルの値です。)

 

Aの回路を基本回路として、その増幅率等は次の式で求めることができます。(誤っているかもしれませんが、調べた結果、こうなりました。)

ここで

 

制作したプリアンプには、右図のステレオをモノラルに変換(ミックス)する回路を組み込みました。このため、入力信号が減衰することになります。減衰率は、

減衰率AdVR(VRR1=105.4KΩ/(105.4KΩ+4.7KΩ)0.957

従い、総合利得Aは、

となります。

 

 

 

先の計算式から、プリアンプの出力に何も接続しないとき(*1)と、46KΩの入力インピーダンスのメインアンプを接続したとき(*2)の、V212AU7の負荷Rp2は、

1:出力は未接続 Rp2=10.2KΩ        

2:出力に46KΩ Rp2=7.22KΩ

となります。

従い、ロードラインは、右図のようになります。

今更ですが、12AU7から見れば、動作点をひと工夫したほうが良さそうに見えます。

 

 

総合利得Aは、プリアンプの出力に何も接続しないとき(*1)と、46KΩの入力インピーダンスのメインアンプを接続したとき(*2)、それぞれで、

1:出力は未接続 A=1.75  

2:出力に46KΩ A=1.60

となります。

 

右図は、メインアンプの入力インピーダンスに対応した増幅率(総合利得)です。10KΩくらいまでは、1以上の利得は確保されます。

 

 

出力インピーダンスZoは、4.26KΩとなります。12AU7の内部抵抗は10KΩもありますが、P-G帰還のおかげで、ここまで下がるのですね。

 

 


回路と実装

回路は、ぺるけさんの回路のデッドコピーです。

Ø  増幅部の回路図 (クリックすると、新しいウインドウで回路図が開きます)

Ø  電源部の回路図 (クリックすると、新しいウインドウで回路図が開きます)

回路図中に直流電圧の実測値を記載してあります。B電圧が設計値の192Vより高め199Vになりました。その他は、概ね設計値に沿った電圧でした。尚、我が家の商用100Vは、100Vより若干高く、また、±3Vくらいの幅でフラフラしています。このためB電圧もフラフラして測定しにくい環境です。実測値として記載してある数値は、大凡の平均値です。

 

 


内部の様子

裏ぶたをはずさなくても真空管を交換できるように、もともと開いていた電源トランス用の穴の真下に真空管を実装しましたが、真空管を交換するにはもう少し大きな穴が必要で狙いどおりにはいきませんでした。

 

 


特性

制作した直後の特性では無く、制作して5年ほど経過してからの測定となります。12AU72代目です。(ボリュームにガリが出ている以外は)初期性能を維持しているかと思われます。

 

L-CH

R-CH

測定条件他

総合利得

1.74

1.72

無負荷 

1V出力 at 1kHz

1.58

負荷に46KΩ

入力インピーダンス

110kΩ

-

出力インピーダンス

4.3KΩ〜4.1kΩ

0.1V入力 at 1kHz ON-OFF

周波数特性

94kHz

-0.5dB

負荷に1mシールド線と47KΩ

214kHz

-3.0dB

歪み率

0.19%

1V at 1kHz

残留雑音

0.91mV

0.89mV

歪み率特性からの推定値

 

 

 

プリアンプの出力に何も接続しない無負荷のときの総合利得1.737倍(L-CH)、1.728倍(R-CH)となりました。左右で揃っていました。出力に46KΩの抵抗を接続したところ、1.58倍の利得が得られました。ほぼ設計値どおりです。

 

LCH

RCH

設計値

無負荷

1.74

1.73

1.75

負荷に47KΩ

1.58

1.60

 

入出力特性は、測定に使用した低周波発振器(KENWOOD AG-203D)の最大出力である10Vまでリニアに増幅していました。

 

入力インピーダンスは、100KΩのボリューム(実測値は104.7KΩ)にモノラル用抵抗R14.7KΩを加算した値の110KΩです。

 

出力インピーダンスは、ON-OFF法で測定しました。

プリアンプの出力に、@何も接続しない(無負荷)、A46KΩの抵抗を接続、B10KΩの抵抗を接続し、0.1V1KHzの信号を入力して測定した結果、4.14KΩから4.26KΩとなりました。

設計値は、4.26KΩです。

 

 

周波数特性は、プリアンプの出力に、@何も接続しない(無負荷)、A46KΩの抵抗を接続、B1mのシールドケーブル+47KΩの抵抗を接続して、測定しました。

右のグラフはL-CHの測定結果です。左右のCHで差異はありませんでした。

低域は、10Hzまでフラットです。

高域は、普段使う環境に近いB(緑色の線)では、0.5dB落ちが94KHz3dB落ちが214KHzでした。

お手本の特性と比べ高域の減衰が早く始まっています。ぺるけさんの記事のコメントに「100kHz以上の帯域の特性は、実装における浮遊容量の影響を受けますので、無駄に線を這わせると高域側にピークが生じたり、あるいはもっと低い周波数から減衰がはじまります」とありましたので、これが理由でしょうか。

 

 

右のグラフは、バス・ブーストの周波数特性です。

お手本と比べて、10Hzから20Hzの盛り上がりが少ない結果となっています。

 

 

 

 

 

 

 

歪み率は、ノートパソコンを使って測定しました。計測ソフトは、efu さん作の有名なフリーソフト WaveSpectra WaveGeneです。PC オーデイオ・インターフェースを使わず、パソコン内蔵の DSP のみで測定しています。

WaveSpectraの設定方法などは、『WaveGene・WaveSpectraを用いた歪率の測定』を参照下さい。)

PC オーデイオ・インターフェースを使わないのでノートパソコンのアナログ入力のインピーダンスが、歪み率計(WaveSpectra)の入力インピーダンスとなります。測定に使用したノートパソコン(NEC Lavie)のアナログ入力のインピーダンスは4.2KΩです。12AU7差動プリにとっては、とても低い負荷となります。そこで、ノートパソコン(NEC Lavie)のアナログ入力と直列に39KΩの抵抗を接続しました。こうすれば、12AU7差動プリから見た負荷は43KΩ(39KΩ+4.2KΩ)と適切な負荷になるかと思います。ただ、この場合、出力電圧が39KΩにより分圧されるため、歪み率計(WaveSpectra)への入力電圧が小さくなってしまいますが、感度が高いので問題はないはずです。また、発振器(WaveGene)の出力電圧が最高1Vなので、プリアンプの出力としては1.5V(利得1.5倍)程度までの測定となります。

 

測定結果は、ご覧のとおりです。左右のCH、また、各周波数で、ほぼ同じ特性で、1V出力(1KHz)のときの歪み率は0.19%でした。6DJ8と真空管が違いますが、お手本の歪み率は、この0.19%より格段に良い数値です。

それにしても残留雑音が多く、何を測定したのか、というカーブになってしまいました。

 

 

 

残留雑音の測定(DMMで測ってみました)

保有するDMMADVANTEST R6441B)の確度は10mVまでです。補正をすれば1mV以下でもそれなりの測定ができるので、出力端子の交流電圧を測定してみました。入力をショートして出力端子に現れる交流電圧を直接DMMで測定したところ、1.6mV2.8mV(L-ch)1.6mV2.2mVとなり、大きな値で、また、ふらふらしていました。

   

 

実際にメインアンプと組み合わせて使用していますが、スピーカーからはノイズは聞こえず静かです。

なにかおかしな感じです。

そこで、残留雑音が0.12mV以下の6DJ8シングル・ミニワッターを本機につなぎ、6DJ8シングル・ミニワッターのSP端子の電圧を測定しました。6DJ8シングル・ミニワッターの増幅率は5倍なので、SP端子の電圧は10mV程度と予想したところ、0.4mVL-CH)、0.2mVR-CH)となり、プリアンプ単独の電圧より小さな値となりました。

どうも、うまく測定できなかったようです。以下、結果だけを記録しておきます。

  

 

 

残留雑音の測定(歪み率特性から計算してみました)

残留雑音を、歪み率特性の測定結果から推定したところ、L-CH0.91mVR-CH0.89Vとなりました。

何か釈然としないのですが、これが本機の実力値なのでしょう。

お手本は、もっと良い値です。ぺるけさんが公開している写真から、平ラグのパターンを起こしたり、部品の取付ける位置、配線などをトレースして実装しましたが、真空管の位置や配線の引き回しのまずさがこの残留雑音の多さの原因かと想定されます。

 

真空管アンプの素』の 159 頁の記事によれば、雑音歪み率曲線の右肩下がりの部分は雑音の大きさを表しているそうです。入力信号を小さくしていけば、歪みどんどん小さくなる、一方、雑音は入力信号が小さくなっても変わらないので、この右肩下がりの部分の主成分は、もっぱら雑音(noise)なのだそうです。

そこで、歪み率の測定結果から、次の計算で、“雑音・歪み率電圧” を求めてグラフ化しました。

“雑音・歪み率電圧”=歪み率*出力電圧

 

 


ご参考

制作した当時の再生環境は、メインアンプ(6HA4-GT全段差動アンプ)にCDプレーヤを直結したシンプルな構成でした。この再生環境下では入力信号を増幅させる必要性を感じなかったこともあり、12AU7を使うことにしました。そして、ロードラインも引かないまま作り、また、利得も測定せず現在に至っています。

今回、制作記事をまとめるにあたり、特性をあらためて測定しました。そして測定で得られた値がはたして妥当な値なのかを検証するため、ロードラインを引いてみることにしました。そして、いざ、ロードラインを引いてみようとして、12AU7の負荷が何KΩになるのか分からないことに気が付きました! なんとも、、、

そこで、片側入力の差動回路についてその振る舞いをあらためて調べてみました。結果は、以下にまとめてあります。ご参考まで。

Ø   片側入力の差動回路ミニなみの測定ニ実験と測定

 

 


 

 


参考書籍、参考ホームページ

ぺるけさん 『情熱の真空管』の『プリアンプを作ろう! 』、『差動ライン・プリアンプ』のページ


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